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PC黒島天主堂イラストと地図

SP黒島天主堂イラストと地図

築118年、国の重要文化財でもある黒島天主堂の耐震対策と保存修理工事。
この先何十年、何百年と建物を守るために行われる工事の内容とは?

耐震&修理で国の重要文化財を守る!

長崎県佐世保市の相浦(あいのうら)港から船で約1時間、黒島へ向かうアンころハザ麻呂
今回は初の九州、しかも初の離島での現場で気分も高まっている様子。

ハザ麻呂 「あの島かな?それともこっちの島だろうか?」
アンころ 「西海国立公園に指定されている九十九島には、大小208の島々があるんだってさ。いま向かっている黒島は、その中で一番大きな島になるらしいよ。といっても周囲12kmくらいだけどね」
ハザ麻呂 「ごはんも楽しみじゃのう。海の幸が我輩を呼んでいる…」
アンころ 「まずはレポートが先ね。どんな現場なのか楽しみ〜!」

港に到着すると、所長のウッチーがお迎えに来てくれていた。早速、車に乗り込み現場へ向かうことに。

  • ウッチー
ハザ麻呂 ウッチー殿、現場へ行く前にコンビニへ寄ってもらえぬか?ミネラルウォーターを買いたいのじゃが…」
ウッチー 「おっと、黒島にはコンビニはないんだ」
  • ハザ麻呂とアンころ

    とはいえ、ハザ麻呂が生まれた時代は未だ謎のままである…

ハザ麻呂 「なんと…!では、食べ物や生活用品の買い物は、どうしておるのか?」
ウッチー 「個人商店で買うんだ。美味しい黒島の水も買えるよ。週末には九州本土まで買い出しへ行くこともあるね。ちなみに、島には信号もないんだよ。都会に比べたら少し不便に感じるかもしれないけれど、美しい風景や食べ物、夜は満天の星空など、魅力もたくさんあるんだ。新鮮な魚料理や養分豊富な赤土で採れた野菜は絶品だから、是非味わっていってね」
アンころ 「都会とはずいぶん時間の流れも違う感じがしますね。仕事を忘れてのんびりしたいな〜」

約5分で事務所へ到着。車を置いて現場の教会へ向かうことに。

  • 旧小学校の校舎

    現在は使用されていない、旧小学校の校舎の一部を
    事務所として借りている

神父様にインタビュー

教会は内外ともに足場で覆われているものの、荘厳な雰囲気は漂っていて、アンころハザ麻呂も思わず気が引き締まる。

  • 教会内部

    机や椅子、特徴のひとつであるこうもり天井の一部も取り外されている

  • 教会祭壇
  • 教会タイル

祭壇も足場やシートで保護。祭壇の床には有田焼のタイルが敷かれている

教会に到着すると、ちょうど神父様がいらっしゃったので話をうかがうことに。

  • ウッチー
神父 「元々、黒島は、江戸時代に移住してきた人々に開拓されたのですが、迫害を逃れるための潜伏キリシタンが多くいました。禁教令が解かれると、信徒たちは洗礼を受け直し、1878年(明治11年)に来島したペルー神父により小さな木造の教会が建てられました。その後、黒島に着任したマルマン神父(※)の設計・指導のもと、島の信徒たちの手によって1902年(明治35年)に完成したのが、現在の教会です」

※フランスで建築学、神学を学んだといわれ、日本の赴任先で教会の建設にたずさわった

ハザ麻呂 「手によって、とは?」
神父 「教会建設の費用は、信徒たちの献金だけでは到底足りないため、自らが勤労奉仕することで人件費を削減したのです。40万個のレンガや木材などの重い資材を人力で運んだりしたそうです。仕事の合間を縫いながらこんな立派な教会を建てるのは、並大抵のことではなかったと思います」
アンころ 「それほど信徒さんにとって念願の教会だったのですね。現在、島にはどれくらいの信徒さんがいらっしゃるんですか?」
神父 「島の人口約400人の8割程度が信徒で、これは他の地域と比べても異例の多さですね。私も皆も、リニューアルされた教会を心待ちにしています。アンころさん、ハザ麻呂さん、しっかりレポートしていってくださいね」
アンころハザ麻呂 「がんばります!ありがとうございました!」

大胆不敵!?重要文化財の工事って何をするの?

神父様と別れ、ウッチー所長に工事の概要を聞くことに。

ウッチー 神父様のお話にあったとおり、現在の黒島天主堂は1902年(明治35年)に建設。規模は間口15.0m、奥行32.6m、建築面積539㎡で、レンガ造および木造、切妻造、瓦葺きの三廊式バシリカ型教会堂だよ。明治期に建設されたレンガ造の教会としては大規模な部類だね。構造も特徴的で、レンガ造の教会は単層構造が一般的なのに対し、黒島天主堂は三層構造で、明治期の教会建築物としてとても貴重なんだ。近隣の地域で建てられた教会堂建築に与えた影響も大きいとされ、国の重要文化財に指定されているよ」
アンころ 「じゅ、重要文化財…」
  • ハザ麻呂とアンころ
ハザ麻呂 「ところで、ウッチー殿、重要文化財なのに壊して建て直すなど、やってもいいのか?」
ウッチー 「建て直しじゃないんだな〜。今回の工事では『耐震対策』と『保存修理』の2つを行うんだ」
アンころ 「対策と修理…。なんだか聞こえは良いが、そもそも重要文化財に手を加えることがアウトなのでは?」
ウッチー 「むしろ必要なことなんだよ。黒島天主堂の場合、過去にも保存修理は数回行われているのだけれど、あらためて耐震診断したところ、構造的に弱い部分があり、大地震が発生すると倒壊の恐れがあるとわかったんだ。耐震対策をするのと何もしないままでは、どちらが文化財を良い状態で、より長く保存できると思うかい?」
ハザ麻呂 「前者であろうな。倒壊してしまっては修理も大変だし、二度と復元できない可能性だってある」
ウッチー 「そうでしょう。保存修理も同じことだね。黒島天主堂は明治のレンガ造の建築物としては状態が良いのだけれど、それでも建立から100年以上経過すると、雨漏りやガラス窓建具の破損など、ところどころ傷んでいる部分も目立ってくるからね」
アンころ 「文化財建造物の価値を維持しながら後世へ伝えるために、耐震対策も保存修理も欠かせないものなんですね」

見えちゃダメ?耐震対策の補強はどこにある?

取材時(2020年1月)は、耐震対策工事の真っ最中。

アンころ 「耐震対策工事っていうと、鉄骨とかで補強をするんですよね?必要なこととはいえ、こんなレンガ造の素敵な教会に鉄骨が丸見えだと、ちょっと雰囲気が変わってしまうというか…」
ハザ麻呂 「いわゆる台無しというやつじゃな」
ウッチー 「まさにそれが今回の工事の大事なポイントとなる『補強材を極力表に出さないこと』なんだ。非常に難度が高く、苦労している部分でもあるんだよ」
アンころ 「苦労というと?」
ウッチー 「耐震補強の方法に沿って説明しながら話していこうか。今回の工事では、大きく分けて2つの補強を行うよ。まずひとつめが、レンガに関する補強だね。黒島天主堂の壁はレンガを積み上げているだけなので、一部が崩れると一気に倒壊する危険性がある。そこで、特に構造上弱いと診断された鐘塔や両脇玄関へ鉄骨を取り付け、レンガ壁には金属棒を挿入するんだ」
ハザ麻呂 「金属棒?ネジのようなものかな?」
ウッチー 「レンガ壁の上から下まで垂直に穴を開けて、長い一本の棒を通すんだ。短いものだと3m、長いものだと17mくらいになるね」
  • 鉄骨補強1

    金属棒は、構造的に弱い建物の角や窓枠の近くを中心に挿入する

アンころ 「17mもの長い穴を開けるなんて、どうやるんですか?ましてやレンガなんて、すぐに壊れそう…」
ウッチー 「構造物の壁や床に穴を開ける技術を使って『コア削孔(さっこう)』をするんだよ。今回は、レンガ用のコア削孔機を使い、削りながら掘り進めることで、レンガに綺麗な穴を開けられるんだ」
  • PCコア削孔 SPコア削孔

    コア削孔のしくみをざっくり説明すると、レンガ壁の上から削孔機を設置して、センターポールを固定
    する(イラスト左)。 そこから、チューブの先端についた刃を高速回転させてレンガを垂直に削りなが
    ら掘り進めていく(イラスト右)。削ってできたレンガの粉は、削孔の間チューブの中にエアーを送り
    続けて飛散させ、集じん器で吸引する

  • コア

実際のコア削孔の様子。鐘塔には最も長い金属棒
を通す

ハザ麻呂 「便利なマシンじゃ。これがあれば、ワカサギ釣りがはかどりそうである」
ウッチー 「ここで最も注意しないといけないのが、角度なんだ。穴がレンガに対してきちんと垂直になっていないと、進めていくうちにどんどんズレが生じて、最悪の場合、ヒビや穴がレンガの外側へ現れてしまう。0.2度でもズレたらアウトという非常に繊細な作業で、ひとつの穴を開けるのに3日くらいかかることもあるんだよ」
ハザ麻呂 「わずかなズレも、気づけば取り返しのつかないことに。まるでアンころの人生のよう…」
アンころ 「いまの発言は後でじっくり聞くとして。これが先ほどウッチー所長が言っていた『補強材を極力表に出さないこと』なんですね」
  • レンガ

金属棒の他にも、レンガの目地に引張強度の高い
アラミド繊維を埋め込み、レンガの崩れを防ぐ

ウッチー 「補強材を表に出さないことは、2つめの補強でも工夫されているよ。小屋組(屋根を支える骨組み)に鉄骨を追加して、レンガ壁と離れて落下しないように補強するというやり方だね」
  • 木材と鉄骨補強

    青い部分は鉄骨、赤い部分は木材で補強をする

ウッチー 「補強する鉄骨や木材は、屋根裏や壁の裏側に入るので、完成後は見えない部分なのだけれど、屋根裏に鉄骨を設置する場合、天井の板をすべて外して取り付けるのが一般的だしスムーズだ。しかし、今回は重要文化財ということで、必要以上に解体を行えないため、最低限のスキマしか開けられないんだ」
アンころ 「補強材だけでなく、補強をした形跡も極力表に出さないってことですね。重要文化財ならではの制限とはいえ、なかなか厳しい〜!」
ウッチー 「その通り。大変と同時に腕の見せどころでもあるから、やりがいを感じる部分でもあるんだよ」

発見の連続!重要文化財の保存修理とは

ハザ麻呂 「さて、耐震対策の次は保存修理についてじゃ。具体的にはどのようなことをするのかな?」
ウッチー 「屋根や天井の雨漏り、レンガや漆喰壁の割れ・風化による破損、建具のステンドグラスの破損など、建物に関する修理全般だね。ただし手を加えるのは、あくまでも破損や劣化した箇所のみ。重要文化財として価値のあるものだから、可能な限りいまあるものをきちんと残すことが大切なんだ」
  • 漆喰

漆喰が浮いてしまったところも修理する

  • はがれたレンガ

レンガの割れは1つずつチェックし、劣化した
箇所のみを交換

その他、補修のために一時的に解体した天井や床板などの資材は旧小学校の体育館へ保管されている。

  • 天井や床板
アンころ 「板一枚一枚に番号が付けられていて、そのまま元の位置に戻せるように管理されているんですね。巨大なパズルみたい!」
  • 天井メモ
ウッチー 「板といえば、教会の天井や柱にはおもしろい技術が使われているんだよ。これ、何かわかるかい?」
  • 櫛目引き_コウモリ天井
  • 櫛目引き
アンころハザ麻呂 「……?」
ウッチー 「これは『櫛目引き』といって、木材に違う木目を刷毛などで描いているんだ」
ハザ麻呂 「ムムッ!?よく見たら確かに…!」
アンころ 「近くでじっくり見ないとわからないですね」
  • 解体した天井
ウッチー 「そして、天井を解体した板がこれなんだけど、端には塗料が塗られていないでしょう?つまり、天井が張られた後で櫛目引きをしたってことになる。今回解体して、そのことが判明したんだよ」
アンころ 神父様のお話だと、マルマン神父と当時の信徒さんたちの奉仕によって建てられたということでしたね。天井に木目を描くなんて、大変な労力だったろうな」
  • 当時の様子

天井へ向かって黙々と作業を行う信徒さん。
当時はこんな様子だったのでしょうか

ウッチー 「限られた資金のなかで、少しでも立派なものにしたい思いがあったのだろうね。それほど彼らにとって黒島天主堂は念願であり、信仰心が厚かったことがうかがえるよね」
ハザ麻呂 「一枚の天井板からわかる新事実…!時代を超えた大発見じゃ」
ウッチー 「他にもいろいろな発見があるよ。例えば、祭壇上の聖人像は、マルマン神父がフランスから持ち帰ったものだとは聞いていたけれど、近くで見ると確かに像の足元に『PARIS』と文字があるとわかったんだ」
  • 聖人像足元
  • 聖人像足元

祭壇中央の上にある聖人像にはPARISの文字が。高所にあるため通常は見えないが、足場を組んで近づ
いたから確認できた

  • 天井飾り

祭壇に向かって右側の祭壇の上にある天井飾りは、
他とは異なり、みこころのレリーフになっている。
これも近くで見たから確認できた

ウッチー 「このように解体したり至近距離で見たりすることで、貴重なものを見られるのは現場ならでは。ロマンがあるでしょう?」
アンころハザ麻呂 「ワクワク!!」

島の現場は時間との戦いの連続だった

ハザ麻呂 「この黒島天主堂は島にあるわけだが、島の現場ならではの苦労や工夫はないのかな?」
ヒロぽん 「ありますよ〜。それについては、僕からお話ししましょう」

登場したのは、入社12年目のヒロぽん

  • 田中さん
ヒロぽん 「まずひとつは資材の運搬だね。ほとんどの資材は九州本土からフェリーで運ぶのだけど、載せられる量や車の台数には制限があり、事前に申請が必要なので、一度に発注しすぎないよう配慮しているんだ。資材が届く際も、港へ迎えに行って現場まで誘導をするよ」
ウッチー 「ミキサー車を搬入する際に、一度だけ船をチャーターしたこともあったね」
  • クレーン

計10台のミキサー車を搬送し、船からの上げ下ろ
しはクレーンを使用

ヒロぽん 「また、勤務時間も特殊だね。現場で働いている人は黒島の住民ではないので、住む場所が必要になる。ウッチー所長と僕は島に家を借りているのだけれど、業者さんたちは島の民宿に滞在する人もいれば、九州本土から毎日フェリーで通っている人もいるんだ。アンころハザ麻呂もフェリーに乗ってきたよね。1日に何便出ているか知ってるかな?」
ハザ麻呂 「東京の山手線のように頻繁ではなかったな」
アンころ 「時刻表によると…往復3便で、1便が黒島港に着くのは10時50分、そして最終便が黒島港を出発するのは15時30分となっていますね」
ヒロぽん 「つまり、港から現場への行き帰りの時間も考えると、実質3時間程度しか作業ができないんだ。残業もできないので、効率よく進める工夫も大切だね。こうした事情もふまえながらスケジュールを調整するのは、なかなか大変なんだよ」
ハザ麻呂 「納期と同じように、現場で働く人たちの生活にも配慮が必要なのであるな」

重要文化財が買える!?「煉瓦(レンガ)のかけら」

資材置き場を通った際に、あるものを発見したハザ麻呂

ハザ麻呂 ウッチー殿、こんなところに土が置かれておるぞ。我輩が外へ捨てに行ってこようか?」
ウッチー 「あっ、ダメダメ!これはコア削孔でレンガに穴を開けた際に出た、かけらや切粉だよ。一部は捨てずに保管をしておくんだ」
ハザ麻呂 「もう使い道がないのに?」
ウッチー 「100年以上も前のレンガとなると、現在とは作り方も異なるし、貴重な学術的資料だからね。板を解体する際に抜いた釘なども保管するよ」
  • リレーのバトン
ウッチー 「レンガは黒島天主堂の特徴のひとつ。その一部は黒島で製作されていて、当時の信徒さんたちの思いが特に詰まっているはずだ。一部は学術的資料として保管するけれど、黒島天主堂を訪れた人たちの思い出にもなるように、こんな小物も生まれているよ」
  • キーホルダー

ガラスボトルの中にレンガのかけらを入れたキーホルダー。
黒島の商店などで発売予定

ウッチー 「売上の一部は、教会を続けていくための大事な運営資金になるんだよ」
アンころ 「無駄にならず、後年の教会の運営に使われるのであれば、当時の信徒さんたちも喜んでくれるかもしれませんね」

取材を終えると、すでにフェリーの最終便は黒島港を出発している時間。島の民宿に宿泊することに。

アンころ 「せっかくだから、島の名所をぐるっと観光してまわろうか!建築当時に資材を陸揚げした『名切ノ浜』や『マルマン神父の墓』、実から採れる油が潜伏キリシタンたちの生活の一部を支えたといわれる『根谷の大サザンカ』…。こうしてみると、黒島全体にカトリックの信仰が深く根付いていることが改めてわかるね」
ハザ麻呂 「その信仰を支えてきた中心的存在が、黒島天主堂なのじゃな。神父様や信徒さん、島の外にも多くの人たちが完成を楽しみに待っておられる。ウッチー所長をはじめ携わる方々には誇りを持って仕事をしてもらいたいものじゃ。では、我々は島のもう一つの中心的存在である『島めし』もいただくとしようかな」
アンころ 「賛成〜!!」
  • イラスト12

<工事概要>

工事名称 重要文化財 黒島天主堂 耐震対策工事
所在地 長崎県佐世保市黒島町3333
発注者 宗教法人 カトリック長崎大司教区
施工者 安藤ハザマ
設計/管理 公益財団法人 文化財建造物保存技術協会
工期 2019年2月4日~2020年9月30日
工事概要 煉瓦造+木造、一部2階建
耐震対策工事、文化財補修復旧工事
取材時期 2020年1月

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