2021年
多方向スラリー揺動攪拌工法「WILL-m工法」を開発
−新たな噴射機構による攪拌性能の向上と施工の高速化により、大幅なコストダウン、工期短縮および環境負荷低減を実現−
2021年3月18日
安藤ハザマ(本社:東京都港区、社長:福富正人)、新日本グラウト工業株式会社(本社:福岡県福岡市、代表取締役:原田軍治、以下、新日本グラウト)、青山機工株式会社(本社:東京都台東区、代表取締役社長 菊地保旨、以下、青山機工)、株式会社トーメック(本社:茨城県猿島郡五霞町、代表取締役会長:宮忠男)、埼玉八栄工業株式会社(本社:埼玉県本庄市、代表取締役:根岸良幸)ならびにWILL工法協会(事務局:福岡県福岡市、会長:平田政之)は、機械攪拌式地盤改良工法において、新たに多方向にセメントスラリー(注1)を噴射可能な機構を搭載することで高い攪拌性能と施工の高速化を実現した、多方向スラリー揺動攪拌工法「WILL-m工法」を開発しました。1.背景と概要
近年、豪雨や地震などの大規模な自然災害の増加を背景に、河川堤防やため池、谷埋め盛土などの安定化対策の必要性が高まっています。既設の堤防や造成盛土の安定対策を実施する場合、施工ヤードが限られ施工性が低下することに加えて、施工が広範囲にわたることから、工期や経済性など合理化のニーズへの対応が必要となります。このような背景から地盤強化や液状化対策などで近年多くの実績を有しているWILL工法に新たに多方向スラリー噴射機構を搭載することで施工の合理化ニーズに対応可能な、多方向スラリー揺動攪拌工法「WILL-m工法」(以下、本工法)を開発しました。
2.特長
本工法は、地盤内にセメントスラリーを噴出しながら混合攪拌することにより、強固な地盤改良体を造成するもので、中層混合処理工法(注2)に分類される地盤改良工法です。本工法の原型である従来型WILL工法では、セメントスラリーの吐出口は攪拌翼先端に水平方向2か所であったのに対し、今回、鉛直下向き方向に新たに2か所の噴射口を設置しました(図1)。この鉛直下向き噴射口から従来の水平吐出圧に比べ約10倍以上(10MPa以上)の高い噴射圧力でセメントスラリーを地盤内に噴射することが可能となりました。これにより下記の効果を得ることができます。
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撹拌性能の向上 地盤の切削と攪拌能力を高めるとともに、原地盤が攪拌翼に付着することを防止することで混合攪拌性能が向上します。さらに時間当たりのスラリー噴射量が従来の240L/minから400L/min程度に1.5倍以上増加します。これらにより、短時間で均質な改良体を造成することができます。 試験施工データより、従来と同等の品質(コア採取率(注3):従来型97.4%→改良型99.4%、図2、写真1)を確保するための1m3あたりの改良時間を60秒/m3から36秒/m3に約40%低減できることを確認しました(図3)。 |
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経済性の向上 施工速度の向上により施工歩掛りが改善し、大幅な工事費の低減が期待できます。 試験施工データより、一般的な粘性土地盤(改良土量5,000m3程度以上)において従来型WILL工法と比較して約20%のコスト低減が可能となります(図4)。 |
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環境負荷低減 施工の効率化、高速化に伴い、機械やプラントなどの稼働時間の短縮により、工事で発生するCO2排出量を削減し、環境負荷を低減することができます。 標準歩掛りデータより、施工に伴うCO2の発生量(改良深さ5〜8m)が従来型WILL工法に比べ約10%低減することが可能です(図5)。 |
3.今後の展開
国土強靭化の加速に伴い、盛土構造物の安定化対策などにおいて、施工性、生産性、経済性に優れた地盤改良工法に対するニーズの増加が予想されます。現在、京都大学防災研究所の渦岡(うずおか)良介教授、当社、新日本グラウト、青山機工による共同研究(2018年10月〜2021年3月)において、本工法を適用した河川堤防の豪雨および地震に対する安定化工法を開発し(図6)、施工ヤードが限定される既設堤防などでの効率的な地盤改良工事への展開を進めています。さらに、埋め立て地盤の液状化対策、構造物の支持力や重機足場のトラフィカビリティー(注4)の確保などあらゆる地盤強化案件に対し、本工法を積極的に活用することで生産性向上の推進に貢献していきます。
注1: |
セメントスラリー:水とセメントを混合した液体。地盤改良機の先端から地盤に吐出して地盤と混合することで、地盤改良体を構築する。 | ||
注2: |
中層混合処理工法:比較的小型のベースマシンを用いた機械攪拌方式の地盤改良工法で、原位置で直接固化材を混合する工法である。概ね13m程度の深さまでの改良を対象とする。 | ||
注3: |
コア採取率:施工後の改良体を対象にボーリングを行い採取した健全な改良体のコアの量を表す。1mのボーリングで1mの健全なコアを採取できた場合、100%となる。「建築基礎のための地盤改良指針」における管理基準値の目安として90%以上と記されている。 | ||
注4: |
トラフィカビリティー:建設現場の地盤においてブルドーザーやクレーンなど建設車両の走破性を示すもので、一般に硬い地盤ほどトラフィカビリィティーに優れている。 |
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全景 | 攪拌翼詳細 |
図1:施工機械 |
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写真1:改良体のボーリングコア(WILL-m工法) (改良箇所は赤く着色される) |
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図2:コア採取率の比較 | 図3:改良時間の比較 |
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図4:直接工事費の比較 | 図5:CO2排出量の比較 |
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※透水性地盤改良:砂利に適量のセメントスラリーを原位置で混合攪拌して造成する空隙を有した改良体 |
図6:コア採取率の比較 |