PROJECT STORY 02

北海道新幹線 後志トンネル
プロジェクト

イノベーション・ICTの取り組み

現在、建設が進められている北海道新幹線は、新函館北斗駅から札幌駅間、全長211.5kmの路線を延伸する工事である。北海道新幹線が札幌駅までつながることにより、札幌から東京までの所要時間は5時間程度となる。北海道新幹線で特徴的なことは、新函館北斗駅から札幌駅間の約8割が、トンネル区間であることだ。その中で安藤ハザマは、全長約18kmの後志トンネルの内、小樽市内に位置する新小樽駅舎付近を起点(札幌側坑口)として、新函館北斗方面に4,460mのトンネル施工を担当している。最新のICTを活用したモデル工事とされている現場だ。2026年1月の完工に向けた取り組みをレポートする。

PROJECT DATA

工事名
北海道新幹線、後志トンネル(天神)他
発注者
独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構 北海道新幹線建設局
施工者
安藤ハザマ・伊藤・堀口・泰進北海道新幹線、後志トンネル(天神)他
特定建設工事共同企業体
工期
2019年11月1日~2026年1月5日
工事概要
トンネル施工延長4,460m、幅員約10m、高さ約8m

PROJECT MEMBER

  • 横内 静二
  • 札幌支店土木部所属。1992年入社。理工学部土木工学科卒。入社後、茨城県つくば市にある技術研究所に配属。入社3年目の1994年から2012年までの18年間、長野、新潟、富山、福島、熊本、鹿児島各県で、一貫してトンネル施工を担当した。その後2012年から2019年まで本社で全国の現場の支援、山岳トンネル工事の技術開発、会社全体の業務改革などに携わり、今回8年ぶりに現場に復帰した。「若手が挑戦できる環境・土壌づくり、若手を育てることこそが自身の役割」。その想いで、現場を指揮している。

CHAPTER 01

オペレーション革新。
ICTを活用したモデル工事。

この現場に作業所長として横内静二が着任したのは、2020年春の着工に向けた前年11月のことだった。横内は入社以来ほぼ一貫して全国各地のトンネル施工に携わってきた、トンネル施工のプロフェッショナル。着任前は本社で現場支援や技術開発を担当しており、8年ぶりの現場復帰だった。「期待と不安両方の気持ちがあったが、期待の方が上回っていた」(横内)と言う。安藤ハザマの新しい挑戦を担って現場を指揮・監督することに胸が高鳴っていた。

今回の工事は「山岳トンネル」に分類され、最も一般的な工法である「NATM」が採用されている。トンネルを掘削した際の周辺地山自体が持つ自立性や安定性などのポテンシャルを勘案して、最適なトンネル支保(掘削面の崩落を防ぐ)構造によりトンネル空間を構築、安定させていく工法だ。トンネルアーチ状に加工された鋼製支保工、吹付コンクリート、ロックボルトを地山の特性に応じ、支保部材のグレードを組み合わせた適正な支保パターンを選択し施工していく。この「NATM」の高度化の取り組みを安藤ハザマでは「i-NATM」と名付けており、今回の工事はICTを活用した「i-NATM」のモデル現場とされている。導入された新技術は「発破の高度化・自動化」であり、それは現場オペレーションに革新をもたらすものだ。具体的にどのようなものなのか。

「山岳トンネルの施工は、いまだに多くの部分を熟練作業者の技能に依存しています。また近年は、業界全体として、少子化に起因する熟練作業者の減少や新規入職者の不足といった問題も抱えています。これらの問題を解決するために必要なのが、施工の自動化技術。熟練作業者の技能に依存する代表的な作業としては、切羽掘削(トンネルを先端で掘削していくこと)における発破(爆薬を仕掛けて岩石などを爆破すること)作業が挙げられます。発破は山岳トンネルでは一般的な掘削方式ですが、今回の現場で発破作業の自動化に挑戦しています。発破の際に、岩盤に爆薬を装填するための孔を穿孔する必要がありますが、その位置、間隔、方向性など、従来、その多くは熟練者の経験と勘に頼っていました。今回、高精度で自動穿孔を行う「全自動ドリルジャンボ」を導入。そして、これまでに当社が独自開発した「発破パターン作成プログラム」「切羽出来形取得システム」の高度化技術と、「全自動ドリルジャンボ」の自動化運転を融合しました。これによって「穿孔作業の自動化による省人化」や「発破の最適化による余掘り(規定寸法以上の掘削)量低減」といった生産性向上に取り組んでいます」(横内)

全自動ドリルジャンボ
切羽出来形の取得のため3Dスキャナ搭載の車両で計測している様子

初めて「全自動ドリルジャンボ」を活用して実施した最初の発破作業のことを横内は忘れられない。緊張、期待、不安などの気持ちが入り混じる中、自分たちが計画した通りに「全自動ドリルジャンボ」が作動し、横内らの狙い通りに発破により岩盤が破壊されたときは、現場に歓声が響き渡った。「仲間と一つになって目標に向かって挑戦することに、仕事に対するやりがいと誇りを感じた」(横内)と言う。

ICT活用は、「発破の高度化・自動化」の取り組みだけに留まらない。工事車両運行管理支援システム「VasMap」を導入した。これはGPS機能を利用した位置管理・安全運行支援システム。車両のダッシュボードにスマホを設置するだけで、事務所側では車両位置を地図上で把握できる。現場や現場周辺ルートの安全管理、法令遵守のエビデンスとして、車両運行をバックアップするシステムだ。また、IoT技術として、「トンネル坑内ビュー」を導入。坑内を360°カメラ動画撮影し記録することで、坑内の安全管理、環境保全に活用されている。また、地質判別にはセンシングやAIも導入されている。

CHAPTER 02

新幹線トンネルに求められるもの。
工事周辺環境への配慮と保全。

「今回の工事の大きな特徴の一つが、「新幹線」のトンネルであるということです。新幹線という高速鉄道のトンネルの品質と出来形(工事済みの部分)は、通常の道路トンネルや鉄道トンネルよりも高いレベルが要求されます。私は過去に北陸新幹線と九州新幹線においてトンネル施工を経験しており、今回で3本目。いずれの現場でも、新幹線トンネル施工は難しく、厳しい判断が求められる局面の連続でした」(横内)。そう語る横内だが、新幹線のトンネルには何が求められるのか。

品質確保の重要なポイントとなるのが、トンネルの仕上げとなる覆工コンクリートの施工だ。これは、地山の変形や崩落の防止など地山安定の確保、将来の剥離・剥落などによる鉄道事故につながらないように、トンネルの掘削面をコンクリートで被覆することを指す。新幹線は高速であり、トンネル内構造物は過酷な環境にさらされるため、高強度、高耐久性を実現するハイスペックのコンクリート、高い施工技能が求められる。

出来形で重要なのは、「線形」。鉄道が出発点(起点)から目的地(終点)を結ぶとき、その形状が直線のみで構成されることや、すべて平坦であることは一般的ではない。途中に障害物があれば、それを避けるために路線に曲線を挿入する必要があり、起点と終点に高低差があれば路線に勾配を設ける必要がある。このような路線の形状を「線形」と称する。4工区にて施工している長大な後志トンネルでは、隣接工区との貫通精度、そしてトンネルの形状に応じて線形は決まるため、トンネル自体の線形精度が非常に重要になってくる。こうした新幹線特有の施工の難しさをクリアしていくことに加え、横内らが着工前から注力していたのが、「工事周辺環境への配慮と保全」である。このような大規模プロジェクトでは、「地元との協調が非常に大事」と横内は言う。

「現場周辺は、山岳トンネル工事としては比較的珍しい市街地での施工となっています。最も近い民家で、トンネル坑口から約25mと非常に近接している。トンネル工事は、昼夜で施工していくことや、トンネルの発破掘削などで、騒音、振動の発生が近隣住民の方へ影響する懸念がありました。そのため施工騒音や作業騒音に対する防音設備の設置をはじめ、様々な事前対策や技術的知見を駆使した施工法の検討を行って、周辺環境への影響を極小化する取り組みを実施しました。また、北海道という大自然豊かな土地柄、工事で発生する濁水も浄化し、自然の生物や漁業産業などへ影響を与えない仕組みや体制を構築して管理を徹底しています。地元の人たちに工事への理解を深めてもらい、地元と良好な関係を構築することは、プロジェクト成功の鍵を握っているといっても過言ではありません。工事情報の公開をはじめ、着工以来、多くの現場見学会の開催により、地域の住民をはじめとした来所者は、約1000名におよびます。現状、地元の方々からのクレーム、苦情がない状況ですが、これを完工まで継続していきたいと考えています」(横内)

安藤ハザマでは、以前から北海道新幹線建設のプロジェクトへ参画する強い意欲があった。そのためには入札において落札する必要がある。横内は現場着任前、本社にて落札に向け、トンネル施工経験者として技術提案等の支援を行っていた経緯がある。「北海道新幹線トンネル工事を受注する」、それは横内のみならず土木事業部のメンバーの悲願と言っても過言ではなかった。入札後は価格のみならず技術面も含めた総合評価で落札者は決定するが、横内らが早い時期から取り組んだ、「工事周辺環境への配慮と保全」は、落札を実現した大きなポイントの一つだった。

工事で発生する濁水を浄化処理する設備
左図設備の処理水を利用した現場内ビオトープにてサンショウウオを保全
CHAPTER 03

挑戦を継続する意志と情熱、
技術開発への想いが、困難な壁を越えてゆく。

現在、4,460m掘削予定のトンネルのおよそ2,500mまで掘削が進んでおり、工事は概ね順調に進行している。建設工事における最重要課題の一つである、無事故・無災害も継続中だ。しかし単に工期内に、高品質のトンネルを安全に施工することだけが今回の目的ではない。先述したように「i-NATM」のモデル現場であり、「発破の高度化・自動化」を実証することが求められている。この「発破の高度化・自動化」を、誰でも抵抗なく現場に導入できる技術とするためには、「まだまだ、改良の余地がある」と横内は言う。すべての発破作業を自動化できているわけではないからだ。地山の土質や地質の状況、湧水の有無等によっては、人の手による穿孔が必要となることもある。

「採用した全自動ドリルジャンボは、高速かつ正確な自動穿孔の機能を有しています。穿孔計画に沿ってガイダンスするナビゲーション機能を持ち、設定した穿孔位置・角度に自動ポジショニングするコンピュータ制御を可能としています。これらを当社開発の発破パターン作成プログラムと融合させていくわけですが、しかしそれらは机上で行っているわけでなく、相手は大自然。地山の状態をはじめ、自然状況に応じて全自動ドリルジャンボの作動を適正に判断・制御していかねばなりません。私たちが目指しているのは、この現場で実証を積み重ねて、他の現場にも導入していくことです。毎日が、「発破の高度化・自動化」という新しい技術への挑戦。確かな答えを導き出していきたいと思っています」(横内)

横内にとって「挑戦」は、これまで技術者として歩んできたその軌跡を象徴する言葉だ。建設業の特徴の一つは「ものづくりにおいて単品生産」ということが特徴となる。家電製品のように工場で同じものを繰り返してつくるのではなく、限られた工期の中でニーズに応じた建設物を構築していくわけだが、一つとして同じ大きさ、形というものがない。したがって現場を運営する技術者は、「現場監督としての業務に加えて、創意工夫に基づく技術開発の仕事があり、それは挑戦の連続」と横内は言う。

「技術開発は通常、研究部門の役割ととらわれがちですが、土木建設業の世界は異なります。自然相手に様々な条件が変わる施工環境下で、現場の最先端にいる我々技術者が創意工夫により対応していくことの中に、新しい技術の芽があります。常に挑戦していく気持ちを持って新しい技術を実践していくことが、現場に関わる技術者だけが経験できる楽しみであり、誇り、喜びと感じて、トンネル施工に携わってきました。今回のトンネル施工は過去の現場以上に、「挑戦する現場」。今後、幾多の壁に突き当たっても、メンバー全員の力を結集し乗り越え、「発破の高度化・自動化」を新たな技術として確立することで、安藤ハザマの土木技術の歴史に確かな足跡を刻みたいと思っています」(横内)

安藤ハザマの土木分野において、常に安定したシェアを確保してきた分野の一つが「山岳トンネル」である。今の時代においても、これまで蓄積されてきた技術的知見は大きな財産であり、今回のトンネル施工においても参照すべきことは少なくない。また、全国のトンネル工事経験者のネットワークの結びつきは強く、情報交換・情報共有が常時行われている。安藤ハザマには、「微粒結集(一人では微力だが、集まれば大きな力になる)」という、長く継承されてきた理念がある。その「団結力」の強さを武器に、2026年1月の完工に向けて、今日も一歩一歩着実に、北の大地でトンネル掘削は進んでいる――。

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