CHAPTER 03
挑戦を継続する意志と情熱、
技術開発への想いが、困難な壁を越えてゆく。
現在、4,460m掘削予定のトンネルのおよそ2,500mまで掘削が進んでおり、工事は概ね順調に進行している。建設工事における最重要課題の一つである、無事故・無災害も継続中だ。しかし単に工期内に、高品質のトンネルを安全に施工することだけが今回の目的ではない。先述したように「i-NATM」のモデル現場であり、「発破の高度化・自動化」を実証することが求められている。この「発破の高度化・自動化」を、誰でも抵抗なく現場に導入できる技術とするためには、「まだまだ、改良の余地がある」と横内は言う。すべての発破作業を自動化できているわけではないからだ。地山の土質や地質の状況、湧水の有無等によっては、人の手による穿孔が必要となることもある。
「採用した全自動ドリルジャンボは、高速かつ正確な自動穿孔の機能を有しています。穿孔計画に沿ってガイダンスするナビゲーション機能を持ち、設定した穿孔位置・角度に自動ポジショニングするコンピュータ制御を可能としています。これらを当社開発の発破パターン作成プログラムと融合させていくわけですが、しかしそれらは机上で行っているわけでなく、相手は大自然。地山の状態をはじめ、自然状況に応じて全自動ドリルジャンボの作動を適正に判断・制御していかねばなりません。私たちが目指しているのは、この現場で実証を積み重ねて、他の現場にも導入していくことです。毎日が、「発破の高度化・自動化」という新しい技術への挑戦。確かな答えを導き出していきたいと思っています」(横内)
横内にとって「挑戦」は、これまで技術者として歩んできたその軌跡を象徴する言葉だ。建設業の特徴の一つは「ものづくりにおいて単品生産」ということが特徴となる。家電製品のように工場で同じものを繰り返してつくるのではなく、限られた工期の中でニーズに応じた建設物を構築していくわけだが、一つとして同じ大きさ、形というものがない。したがって現場を運営する技術者は、「現場監督としての業務に加えて、創意工夫に基づく技術開発の仕事があり、それは挑戦の連続」と横内は言う。
「技術開発は通常、研究部門の役割ととらわれがちですが、土木建設業の世界は異なります。自然相手に様々な条件が変わる施工環境下で、現場の最先端にいる我々技術者が創意工夫により対応していくことの中に、新しい技術の芽があります。常に挑戦していく気持ちを持って新しい技術を実践していくことが、現場に関わる技術者だけが経験できる楽しみであり、誇り、喜びと感じて、トンネル施工に携わってきました。今回のトンネル施工は過去の現場以上に、「挑戦する現場」。今後、幾多の壁に突き当たっても、メンバー全員の力を結集し乗り越え、「発破の高度化・自動化」を新たな技術として確立することで、安藤ハザマの土木技術の歴史に確かな足跡を刻みたいと思っています」(横内)
安藤ハザマの土木分野において、常に安定したシェアを確保してきた分野の一つが「山岳トンネル」である。今の時代においても、これまで蓄積されてきた技術的知見は大きな財産であり、今回のトンネル施工においても参照すべきことは少なくない。また、全国のトンネル工事経験者のネットワークの結びつきは強く、情報交換・情報共有が常時行われている。安藤ハザマには、「微粒結集(一人では微力だが、集まれば大きな力になる)」という、長く継承されてきた理念がある。その「団結力」の強さを武器に、2026年1月の完工に向けて、今日も一歩一歩着実に、北の大地でトンネル掘削は進んでいる――。