PROJECT STORY 03

(仮称)新社屋建設計画

長年にわたって培った
施工技術が遺憾なく発揮された、
「安藤ハザマの代表作」となる
建築への取り組み。

世界的な光学機器メーカーである株式会社ニコン(以下、ニコン)は、2021年11月に本社の移転を発表した。場所は東京都品川区の同社・大井製作所の敷地内空地。新本社ビルには、コーポレート部門、各事業ユニットの企画部門および先進R&D関連部門を集約することで、開発機能の強化や事業間シナジーの創出を図り、持続的な成長を目指す。この新本社ビルの受注を勝ち取ったのが、安藤ハザマだった。2022年9月に着工して現在、2024年5月の竣工に向けて工事は着実に進められている。安藤ハザマの歴史の中でも過去最大規模となるプロジェクトであり、「安藤ハザマの代表作」と目される建築物。これまでの取り組みの軌跡を紹介する。

PROJECT DATA

工事名
(仮称)新社屋建設計画
施工者
安藤ハザマ
工期
2022年9月1日~2024年5月31日
工事概要
鉄骨造 地上6階建 基礎免震構造

PROJECT MEMBER

  • 坂田 勉
  • 東京支店所属。工学部建築学科卒。学生時代、アルバイトを通じて安藤ハザマの作業所長と出会ったのが、入社のきっかけだった。入社後、施工管理技術者としてキャリアをスタートさせ、33歳ではじめて所長に着任。以来、10ヶ所以上の現場を所長として担当してきた。2013年以降、数ヶ所の工事現場・各所長を統括する工事長等を歴任し、大型ショッピングモール建設現場に再び所長として着任した。竣工後、プロジェクト推進部に配属となり、今回の案件を落札した。「仲間と一緒にものづくりをする楽しさを実感でき、いろいろな経験をすることで成長できる」、安藤ハザマの魅力を坂田はそう語っている。

CHAPTER 01

指名競争入札に参加して落札。
緻密に練られた施工計画、過去の実績、
取り組みに対する高い評価。

今回建設する(仮称)新社屋建設計画は、敷地面積約1万8000㎡、延床面積約4万2000㎡、地上6階建、隣接して食堂などからなる厚生棟が建ち、柔軟な働き方に対応したワークプレイスを整え、デジタル化を推進するオフィス空間を目指すとともに、サステナビリティを重視した、環境配慮型オフィスビルとする計画だ。具体的には日射遮蔽効果に優れた外装デザインとすることで、必要な空調用エネルギーを抑制するとともに、自然光の室内への導入や自然換気を促す機能も有した構造としている。また、オフィスの稼働状況に応じた可変風量システムの導入などを合わせ、建物全体での大幅な省エネを実現し、「ZEB Ready」(※1)認証と、建築物省エネルギー性能表示制度「BELS」(※2)の最高ランクである5つ星を取得する見込みで、さらに太陽光発電の導入による創エネも行う計画である。ニコンの各事業の歴史、製品、技術などを一堂に展示する「ニコンミュージアム」も新本社ビルに併設する。建設予定地の大井製作所は、ニコンが100年以上にわたって拠点を構え、さまざまな製品やサービスを生み出してきたゆかりの地で、ここに新本社ビルを建設するのが今回のプロジェクトの概要である。 ZEB Ready-Net Zero Energy Building Readyの略。快適な室内環境を実現しながら、従来の建物で必要なエネルギーと比較し、省エネによって50%以上のエネルギー消費量の削減を実現している建物 BELS-Building-Housing Energy-efficiency Labeling Systemの略。建築物の省エネ性能を表示する第三者認証制度の一つ。一次エネルギー消費量をもとに5段階の星マークで表示している。

新社屋 完成イメージ

今回のプロジェクトでは、指名競争入札が行われた。指名競争入札とは、過去に施工した建物の規模や用途など一定の基準に基づき、発注者から入札参加への打診を受けて入札に応じるもので、発注者から指名された建設会社のみが応札できる。この指名競争入札の打診が安藤ハザマのもとに届いたのが、2022年春。現在、(仮称)新社屋建設計画の統括所長を務める坂田勉は当時、案件受注に向けた取り組みを担当するプロジェクト推進部に在籍していた。坂田はすぐに案件の検討に入った。最適な工程計画や施工計画、それに対応した入札価格等々、納期や発注者要望に応えるために検討する要素は多岐にわたる。このあと坂田は、これら検討から入札、受注、施工と一貫してプロジェクトを指揮していくことになる。

「延床面積約4万2,000㎡という大規模な建築物であり、内外装において設計者のこだわりを感じる斬新な建物でした。さらに21ヶ月という限られた工期。工事価格は安藤ハザマにとって過去最大規模となる案件であることもわかってきました。仔細に設計図書を検討していく中で、建設予定地の周辺環境や必要な資材・施工能力などの情報を洗い出し、施工の安全性や品質、コストといった様々な観点から検討を重ねながら、最適な施工計画を練っていきました」(坂田)

安藤ハザマが競争入札に指名されたのは、設計業務を担当する株式会社三菱地所設計の推薦があったからだった。推薦の理由は、今回のプロジェクトメンバーの一人が同社設計のオフィスビルの施工を担当した実績があり、その評価が高かったからである。さらに合併前の昭和40年代に、ニコンの工場建設を手掛けた実績があり、タイでニコンの工場が洪水による被害にあった際、当社の現地法人が援助に向かった過去もある。本プロジェクトはニコンの担当者にとっても過去最大の「挑戦」であり、その挑戦を共にするパートナーとして安藤ハザマが選ばれたことは誇りでもあった。

「これまで所長として数多くの現場を担当してきましたが、これほど大規模なプロジェクトは初めてでした。受注に向けた取り組みの中で、限られた工期や高低差の大きい建設予定地でどのように基礎工事を進めていくか、内外装工事での複雑な設計をいかに実現していくかなどさまざまな課題がありました。しかし、かつてない挑戦を共にするパートナーとして安藤ハザマを選んでいただいた以上、任せてよかったと言われる建物をお引渡ししたい。その想いを胸に本プロジェクトに全力で挑むことを決意しました」(坂田)

CHAPTER 02

高低差のある土地での基礎工事。
意匠のこだわり、デザインの独自性。

「建設エリアとなる土地に対して新社屋を目いっぱいに建てる計画であり、作業エリアを十分に取れる現場ではありません。さらに、隣接する北側道路には規制があり、重量6トン以上の車両は通行できないため搬入動線として使えず、道路から乗り入れが可能な搬出入口はそれぞれ一ヵ所という環境でした。その中で、私たちが最初に取り組んだのが、高低差のある地盤における基礎工事です。具体的には、南側が高く北側が低い、その差は約5.3mです。地下を約11m掘削する必要がありましたが、高低差のため切梁を設置できず、また山留面と道路境界が近く十分な長さのアースアンカーを設置することもできないため、さまざまな工夫をする必要がありました」(坂田)

地盤掘削時の山留め壁にかかる土圧を支持するための「SMW工法」(※3)と敷地境界内に納まる定着の短い「アースアンカー工法」(※4)、山留めの背面土圧を軽減するための「親杭横矢板工法」(※5)による段切りや地盤改良など、さまざまな工夫を凝らしながら、高低差という課題をクリアしていく施工法を採用し、基礎工事を進めていった。基礎工事は翌2023年5月に終了し、最初の柱を立てる立柱式の日を迎えたのである。 原地盤を削孔ながら土とセメントスラリーを混合・撹拌し、ソイルメントの壁体を造る工法。 山留め壁の背面に設けたアンカー体を利用して地盤を支える工法。 H形鋼杭を打設し、掘削に合わせて横矢板を入れ、山留め壁を形成していく工法。

「これまでの工程の中で、一番印象深いのは立柱式です。円滑に工事を進めるためには、事前の計画が最も重要です。月間・週間の工程表を漏れなくすべて書き、メンバーがそれを理解すること。各工種の着工前・着工後も常に工事進捗には目を配り、問題があれば是正していきます。その結果、一日の狂いもなく着工当初の予定通りに立柱式の日を迎えることができました。地上部分の躯体工事が始まった後も、鉄骨などの構造材の搬入、揚重、施工順序など、計画・調整には細心の注意を払って臨んでいます」(坂田)

立柱式の様子

新本社ビルの最大の特徴は、意匠の斬新性と豊かさにある。オフィスビルの場合、使い勝手の良さなど機能性や居室の快適性などが要求されるが、それらを満たしつつ意匠設計者のこだわりが、ふんだんに散りばめられたデザインになっている。たとえば4階から突き出た大庇(ひさし)。庇は大きく突き出ているため、仮設計画には緻密さが求められた。外装の壁にも庇が、エントランスには金属すだれが取り付けられる。内装では、オフィスの天井にPC床版が設置された。PC床版とは、プレストレスコンクリート床版の略で、PC鋼線を使い、コンクリートに予め圧縮力をかけて引張力に弱いコンクリートをひび割れから守る性質を持たせた床版だ。しかし今回採用されたのは、床版と言っても平らなものではなく、3次元の造形でデザインされており、非常に個性的な天井空間を生み出している(写真参照)。

大庇(ひさし)
天井に取り付けられたPC床版

「3階から5階のオフィス天井に、長さ14.5mのPC床版を取り付ける施工であり、その数、全414台。製作方法、取り付け方法の検討を重ねました。設計の趣旨を守りながら施工計画を立て、実施する過程には困難なこともありますが、さまざまな発想で提案し、技術的な根拠で裏付けを取りながら、計画を実現していくことが大事だと思います」(坂田)

また、新本社ビルの特徴の一つに、「球面すべり支承」(※6)と呼ばれる免震装置を採用した点が挙げられる。免震装置は一般的に積層ゴムなどが用いられるが、この装置にはステンレス製のスライダーが使われている。金属なので劣化が少なく、メンテナンスコストが軽減されるというメリットがあり、「免震」に関する新たなノウハウ獲得の機会となった。また、安藤ハザマ内ではBIMが浸透しているが、現場の社員全員がBIMソフトを使っており、今回、他社設計において建物全体を詳細に至るまで構築したBIM活用は初めての試みとなった。今後はLCS事業本部で受注した本物件のビルメンテナンスでも活用していく考えだ。 おわん型のすべり板が上下にあり、その中間に自由に滑る金属の塊「スライダー」がある構造。地震で建物が揺れたときにスライダーが移動し、地面の揺れが建物に伝わりにくい。地面と建物の位置がずれると、建物の自重によって、建物が元の位置に戻る仕組み。

CHAPTER 03

みんなの技術力を出し切り、
お客様の満足を追求する「チーム」をつくる。

坂田が着工以来、目指してきたのは、社員と協力会社のメンバーを含めた「チームをつくる」ことだ。現在、協力会社の作業員は1日あたり約300名だが、今後工事の進捗に伴い、最盛期には約1,000名に膨れ上がる。安藤ハザマの施工管理担当者は26名で、図面担当者、設備担当者、事務スタッフなどを加えると、約60名になる大所帯の作業所だ。

「安藤ハザマはお客様の満足を追求することを企業理念にも掲げており、その実現のために品質に徹底してこだわってきました。その考えが一貫して継承されていると思います。そうした考えをチーム全体で共有することが大切です。そのためにも、まずは安全性の確保も含めた、働きやすい環境であることが重要です。そしてそれぞれの意思を尊重したい。やりたいことにはチャレンジさせる。押し付けるのではなく、自主的に動くことを奨励しています。『みんなの技術力を出し切る、すべての関係者の満足のために』。これが現場の運営方針であり、スローガンとなっています」(坂田)

坂田にとって、今回のプロジェクトはこれまで蓄積してきた知見のすべてを活かす自身の「集大成」だ。国内トップレベルの設計事務所とコラボレーションした世界を代表するニコンの新本社ビルは、確実に「安藤ハザマの代表作」になる。
これまで見てきたように、今回のプロジェクトは、長年にわたって培ってきた安藤ハザマの施工技術、知見・ノウハウが、微に入り細に入り、随所に遺憾なく発揮されている。2024年5月の竣工に向けて、現場は佳境を迎えつつある。その竣工の日、安藤ハザマにまた新しい歴史が刻まれる――。

プロジェクト