安藤ハザマ(本社:東京都港区、社長:野村俊明)はこのたび、東北大学東北アジア研究センター佐藤源之(さとう もとゆき)教授の指導のもと、地上設置型合成開口レーダを土木工事の施工に活用し、長大のり面における掘削中の斜面動態観測の高度化および省力化を実現しました。
1.切土のり面動態観測に関する課題
長大のり面や急峻な地形における切土掘削工事などでは、光波測距儀(注1)やGPSなどの地表面計測を実施し、豪雨や地震などに伴うのり面の変状の有無を確認しながら掘削を進めていきます。
しかしながら、このような従来の計測手法では、設置できる計測機器の数には限りがあるため、計測で変位が確認されても、その結果のみで実際に変状が発生している範囲を特定することは困難でした。
2.地上設置型合成開口レーダ
地上設置型合成開口レーダ(GB-SAR(ジービー・サー): Ground Based - Synthetic Aperture Radar)は、17GHz帯の電波を放射し、観測対象物から散乱された電波を受信することで、レーダアンテナとの距離を面的に計測し、変位を高精度で算出します。
具体的には、約2mのレールの上に設置されたレーダアンテナが移動しながら電波の送受信を行い、仮想的に大きなアンテナを作り出すことで、レーダの分解能を向上させます(図1)。また、干渉SARと呼ばれる手法を用いることで、同じ範囲を繰り返し計測し、受信する電波の位相のずれから、変位を1mm以下の精度で算出することができます。
このような性能によるGB-SARの以下の特徴を生かし、定点観測に特化した観測手法として、インフラモニタリングなどの分野で研究が進められています。
〔GB-SARの特徴〕
(1) 観測対象物の面的変位を高精度で観測可能である。
(2) 長距離(数km)でも観測精度が確保できる。
(3) 非接触で観測できるため、観測範囲内に立入る必要が無い。
(4) 天候(雨や雲など)や方位などの影響を受けにくい。
3.大規模切土工事への適用
GB-SARを用いた、土木工事施工中の動態観測への適用性および精度を検討するため、実際の切土のり面を施工する工事(注2)で試験運用を行いました(図2)(図3)。
GB-SARを切土のり面の対岸に設置し(直線距離約700m)、掘削期間中の2~5分に1回の頻度で24時間の連続計測を行いました。また、干渉SARにより得られる結果は、ドローンで撮影した写真を用いて作成した3次元モデルに、変位の大きさに対応したカラーマップを重ねて表示しました(図4)。計測精度については、従来の手法(光波測距儀、GPSなど)と比較を行い、土木工事で必要とされる精度を有することを確認しました。また、変位状況を工事関係者が閲覧し、情報を共有できるネットワークシステムを構築しました。これにより、降雨の前後などで、変状の有無をリアルタイムで確認することができ、施工の安全管理に役立てることができました(図5)。
以上のように、切土のり面の動態観測にGB-SARを適用することで、計測点への機器の設置や現地での測量が不要となるため、格段に省力化を図ることができます。さらに、のり面全体の変状を面的に把握することができるため、変状発生の見逃しがなく、長大のり面の監視に有用であることを確認しました。
4.今後の展開
今後は、山岳トンネル工事における切羽の安定確認など、さまざまな工事において安全管理ツールとして適用を行っていきます。また、i-Constructionを支える技術として、切盛土量の算出など現場管理のさらなる省力化や自動化を可能とする技術として開発を進めていきます。
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光波を用いて距離を測定する装置。計測点に設置した反射プリズムに光波を発振し、反射波を受振するまでの時間から距離を算出する。
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国土交通省九州地方整備局発注の熊本325号災害復旧阿蘇大橋地区工事用道路(南阿蘇工区)工事。熊本地震により崩落した阿蘇大橋の架け替え工事のうち、橋台構築のための基礎掘削工事として、幅100m、高さ100m程度の切土のり面を造成する工事です。