安藤ハザマ(本社:東京都港区 社長:国谷一彦)は、2021年8月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」への賛同を表明して、「TCFDコンソーシアム」に参画しましたが、このたび、TCFD提言に基づく情報開示をしましたので、お知らせいたします。
当社グループは、気候変動への対応を重要な経営課題の一つと捉え、マテリアリティとして「地球環境の保護と調和」を掲げて、さまざまな取り組みを実施してまいりました。
加えて、2019年のSBTの認定取得、RE100への加盟を通じて、温室効果ガスの中長期排出削減目標等に向けた取り組みを加速してきたところですが、今後はTCFD提言に沿った気候変動関連情報の開示を進めることで、更なる脱炭素化の推進を図り、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
(ご参考) 「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」
G20の要請を受け、各国の中央銀行・金融当局や国際機関が参加する金融安定理事会(FSB)により、 気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するために設立されたタスクフォースです。
2017年に最終報告書を公表しており、企業等に対し、気候変動がもたらすリスクと機会が経営に与える財務的影響を評価し、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」について開示することを推奨しています。
1. TCFDが推奨する開示項目と当社グループの開示内容
気候変動問題に起因する「リスク」及び「機会」への対応
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当社グループでは、マテリアリティとして「地球環境の保護と調和」を掲げており、気候変動への対応を重要な経営課題の一つと捉え、気候変動問題に起因する物理的リスク及び移行リスクを網羅的に特定し分析しています。それらのリスク回避及び機会獲得への対応を推進し、企業としてのレジリエンスを高めつつ、戦略的に気候変動への対応に取り組んでいます。
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2021年8月にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明し、TCFD提言に沿った、気候変動問題に関連する情報の開示を積極的に進めています。
TCFD対照表
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TCFDが推奨する開示項目と当社グループの開示内容は、以下の通りです。
ガバナンス | |
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推奨される開示項目 | 開示内容 |
a) 気候関連のリスク及び機会についての、取締役会による監視体制を説明する | ①取締役会、サステナビリティ委員会、内部統制・リスク管理委員会及び環境戦略委員会の位置づけ ②気候変動に関連する課題の監視体制 |
b) 気候関連のリスク及び機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明する | ①環境戦略委員会の構成 ②経営会議、取締役会及びサステナビリティ委員会との関係性 ③役員の役割 |
戦略 | |
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推奨される開示項目 | 開示内容 |
a) 組織が識別した、短期・中期・長期の気候関連のリスク及び機会を説明する | 気候変動に起因する中長期のリスク及び機会の内容と当社グループへの影響 |
b) 気候関連のリスク及び機会が組織のビジネス・戦略・財務計画に及ぼす影響を説明する | 各リスク及び機会の当社グループに及ぼす財務影響の大きさ |
c)2℃以下シナリオを含む、様々な気候関連シナリオに基づく検討を踏まえて、組織戦略のレジリエンスについて説明する | 当社グループの想定する複数のシナリオ(1.5/2℃シナリオ・4℃シナリオ)下における検討結果と、リスクの回避及び機会の獲得に向けた対応 |
リスク管理 | |
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推奨される開示項目 | 開示内容 |
a) 組織が気候関連リスクを識別・評価するプロセスを説明する | 環境戦略委員会における気候変動に起因するリスク及び機会の特定・評価プロセス |
b) 組織が気候関連リスクを管理するプロセスを説明する | 環境戦略委員会、取締役会及びサステナビリティ委員会におけるリスク及び機会の管理プロセス |
c)組織が気候関連リスクを識別・評価・管理するプロセスが組織の統合的リスク管理にどのように統合化されているかについて説明する | 環境戦略委員会、内部統制・リスク管理委員会におけるリスク管理体制及び管理プロセス |
指標と目標 | |
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推奨される開示項目 | 開示内容 |
a) 組織が、自らの戦略とリスク管理プロセスに即して、気候関連のリスク及び機会を評価する際に用いる指標を開示する | リスク・機会が顕在化した際に及ぼす財務影響の大きさを試算する際に用いた指標(Scope1,2,3排出量等) |
b) Scope 1, Scope 2及び当てはまる場合にはScope 3のGHG排出量と、その関連リスクについて開示する | 当社グループのScope1,2,3排出量及びそれらと関連するリスク |
c)組織が気候関連リスク及び機会を管理するために用いる指標、及び目標に対する実績について説明する | 当社グループのGHG排出量削減目標と削減活動 |
2. ガバナンス
気候変動に起因するリスク・機会の管理に関する当社グループのガバナンス体制
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気候変動に起因するリスク・機会に関しては、環境戦略委員会で審議されます。環境戦略委員会には事業部門の代表者及び役員が参加し、リスク・機会の特定及び顕在化した際の影響分析、その対応策の検討を年4回実施します。その結果は経営会議を通して取締役会に報告されます。
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気候変動を含む事業等に重要な影響を与える可能性のあるリスクについては、内部統制・リスク管理委員会において、リスクマネジメントの検討・審議が行われ、サステナビリティ委員会での審議を経て、取締役会へ報告されます。気候変動に起因するリスクに関しては、環境戦略委員会と連携し対応しています。
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当社グループの気候変動対応に係る組織体制を以下に示します。
3. 戦略
シナリオ分析によって特定した気候関連のリスク及び機会、当社グループ事業への財務影響
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当社グループでは、将来における気温上昇のシナリオとして、1.5℃・2℃・4℃の3種類の温度帯を想定し、2030年及び2050年におけるシナリオ分析を実施しています。
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以下の表に示す政府機関及び研究機関で開示されているシナリオなどを参照して、重要度の評価及び財務影響の分析を実施しています。
参照したシナリオ/外部パラメータ出典 | |
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移行リスク | World Bank「State and Trends of Carbon Pricing 2021」(2021年) |
IEA「WEO 2018」(2018年)4℃シナリオはNPS、2℃シナリオはSDS | |
IEA「WEO 2022」(2022年)4℃シナリオはSTEPS、2℃シナリオはSDS、1.5℃シナリオはNZE2050 | |
物理リスク | World Bank「Climate Change Knowledge Portal」 4℃シナリオはRCP8.5、2℃シナリオはRCP2.6 |
国土交通省「気候変動を踏まえた治水計画のあり方提言」(2021年) | |
ILO “Working on a warmer planet”(2019年) | |
環境省、気象庁「21世紀末における日本の気候」(2015年) | |
環境省他「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート2018」(2018年) | |
移行機会 | IEA「WEO 2022」(2022年)4℃シナリオはSTEPS、2℃シナリオはSDS、1.5℃シナリオはNZE2050 |
資源エネルギー庁、総合資源エネルギー調査会等公表資料 |
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当社グループでは、気候関連のリスク及び機会を評価する際に、Scope1,2,3排出量や電力消費量、また各シナリオで参照される炭素価格の予測、真夏日の増加日数割合などをパラメータ(指標)として活用しています。
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それらのパラメータを用いて評価を行った、当社グループの事業に影響を及ぼす、気候変動に起因するリスク・機会と各リスク・機会の重要度(影響の大きさ)を以下の表に示します。
◆リスク
分類 | リスク タイプ |
リスク 要因 |
リスクが顕在化した際の当社グループへの財務的影響 | 影響度 | |
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4℃ シナリオ |
1.5℃~2℃シナリオ | ||||
移行 リスク |
政策及び規制 | カーボンプライシングの導入 | 【カーボンプライシングの導入による資材調達費の増加】 GHG排出量に対する価格付けの一つとして、炭素税の増税が想定される。それに伴って、原材料(資材)の製造原価であるエネルギー費用が増加し、原材料の価格が上昇する。 |
- | 大 |
【カーボンプライシングの導入によるエネルギー調達費の増加】 GHG排出量に対する価格付けの一つとして、炭素税の増税が想定される。それに伴って、当社グループの直接コストである燃料調達費や電力・熱エネルギー調達費が増加する。 |
- | 中 | |||
物理 リスク |
慢性 | 夏季の平均気温の上昇 | 【ヒートストレスによる建設技能者の生産性低下】 平均気温の上昇に伴い、建設現場の労働環境が悪化し、生産性の低下が想定される。それに伴って、労働時間の増加あるいは人員の増加により、人件費が増加する。 |
大 | 中 |
【建設技能者の健康被害(熱中症等)への対策費用の増加】 平均気温の上昇により、建設技能者の健康被害(熱中症等)の増加が想定される。それに伴って、健康被害の対策のための設備投資コストが増加する。 |
小 | 小 | |||
急性 | 自然災害の激甚化、頻発化 | 【サプライチェーンの分断による資材調達費の増加/建設作業所等の被災による人件費・仮設費の増加や工程遅延】 気候変動の影響により、サイクロンや洪水などの自然災害が激甚化・頻発化することが想定される。それに伴って、サプライチェーンの分断が発生し、資材調達費の増加や工程遅延につながる。また自社の建設作業所等が被災し人件費・仮設費の増加や工程遅延につながる。 |
中 | 小 |
◆機会
分類 | 機会 タイプ |
機会 要因 |
機会が顕在化した際の当社グループへの財務的影響 | 影響度 | |
---|---|---|---|---|---|
4℃ シナリオ |
1.5℃~2℃シナリオ | ||||
機会 | エネルギー源/市場 | 脱炭素エネルギー源の利用 | 【再エネ発電施設への建設投資が増加】 脱炭素エネルギー源(再生可能エネルギー)の需要が高まり、再エネ関連施設の建設需要が増加し、関連工事の売上高が増加する。 |
小 | 中 |
【エネルギーマネジメント提案により新築受注が増加】 脱炭素エネルギー源(再生可能エネルギー)の需要が高まり、エネルギーマネジメントを絡めて新築受注につなげることで関連工事の売上高が増加する。 |
中 | 大 | |||
製品及びサービス | 脱炭素商品/サービスの開発、拡大 | 【ZEBの普及と高付加価値化】 脱炭素エネルギー源/建築物の需要が高まり、次世代のエネルギーマネジメント技術やZEBのニーズ拡大に伴って、当社グループの売上高が増加する。 |
大 | 大 | |
【省エネリニューアルの需要増加】 脱炭素エネルギー源/建築物の需要が高まり、既存ビルの省エネ改修工事(省エネリニューアル)の需要増加に伴って、当社グループの売上高が増加する。 |
中 | 大 | |||
防災・減災、国土強靭化 | 【防災・減災、国土強靭化の需要の増加】 激甚化する自然災害に適応するため、防災・減災、国土強靭化の需要が高まり、関連工事の売上高が増加する。 |
大 | 大 |
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当社グループは、環境方針及び環境目的・目標(3か年)を設定するとともに、SBT認定、RE100への加盟など、低炭素社会、循環型社会、自然共生社会の実現に向けて、各種施策を積極的に展開し、環境重視経営を推進しています。
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具体的にはこれらのリスクの回避/機会の獲得に向けて、以下のような対応策の実施を推進しています。(検討中の策を含む)
リスク/機会への対応 | 対応策 |
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カーボンプライシングによるリスクへの対応 | 低炭素資材(低炭素型セメント等)の利用 |
軽油代替燃料(BDF/GTL燃料等)の利用 | |
再エネ電気の確保と利用 | |
業務効率化や生産性向上を含めた省エネ活動の継続 | |
自然災害の激甚化、頻発化によるリスクへの対応 | 防災・減災・BCP対策の実施 |
脱炭素エネルギー源の利用に係る機会獲得への対応 | 発電所建設の豊富な実績と技術力を再エネ発電所にも展開 |
次世代エネルギーマネジメントシステムの開発とサービス展開 | |
脱炭素商品/サービスの開発、拡大に係る機会獲得への対応 | ZEB技術の高度化と自社設計案件での積極的な提案 |
省エネリニューアル技術を核としたワンストップサービスの実践(LCS事業) | |
防災・減災、国土強靭化 | 実績と技術優位性を活かした大型高難度工事への取組継続 |
4. リスク管理
気候関連のリスクの特定・評価・管理プロセス
当社グループでは、環境戦略委員会において、気候変動に起因するリスク・機会の洗い出しを行っています。
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具体的には、当社グループのサプライチェーン/バリューチェーンを念頭に、当社グループ全体への影響及び各プロセス(開発・設計→資材調達→施工→保守・修繕)において想定しうる影響を抽出し、 4℃シナリオ・2℃シナリオ・1.5℃シナリオの下でどのような財務影響が起こり得るのか想定し、さらに「発生頻度」「影響期間」「影響の大きさ」「コアビジネスとの関連性」「顕在化する可能性」「顕在化する時期」といった評価軸を用いて、各リスク・機会を3段階で評価し、総合的に重要度を評価しています。
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特定されたリスクに対して、取締役会及びサステナビリティ委員会の監督の下、環境戦略委員会及び内部統制・リスク管理委員会を中心にリスクの回避、軽減、移転、保有に関する方針の策定や対応策の立案など、全社を通じたリスクマネジメントを行っています。また、対応策の実施状況並びにその効果についてモニタリングを実施しています。
5. 指標と目標
気候関連のリスク及び機会の分析に活用した指標及びScope1,2,3排出量との関連・目標
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当社グループのScope1,2,3排出量は気候関連のリスク・機会の影響を受ける指標であり、例えば新たに炭素税が導入されることで、エネルギーコストの増加や調達原材料の価格高騰といった財務影響につながります。
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Scope1,2,3排出量は財務影響に直結するパラメータ(指標)となるため、当社グループでは、その影響を軽減するためにScope1,2,3排出量の削減に努めています。なお、2050年カーボンニュートラルの実現に向けてScope1,2は、1.5℃シナリオに基づく目標、Scope3はWB2.0℃に基づく目標を掲げており、またRE100にも加盟しています。
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当社グループの直近年度におけるGHG排出量や再生可能エネルギーの導入割合は当社ウェブサイト及びサステナビリティレポートにて開示を行っております。
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今後これらの指標に伴うリスクの軽減及び機会の獲得のために対応策を実施し、豊かな地球環境を次世代に残すために脱炭素・循環型社会の実現への取り組みを着実に推進していきます。