安藤ハザマ(本社:東京都港区、社長:福富正人)は、ICTの活用により山岳トンネル工事の生産性を大幅に高める取組みを推進しています。その一環として、このたび、株式会社エルグベンチャーズ(東京都目黒区、社長:吉田光孝)と共同で、山岳トンネル工事の切羽の作業サイクルを切羽監視カメラで撮影した画像から判別する「切羽作業サイクル判定システム」を開発しました。
これにより、現場で特別な設備を追加することなく、トンネルの施工サイクルのデータを自動かつ高精度で取得出来るようになりました。
1.開発の背景
山岳トンネルは、切羽での作業を繰り返しながら通常1.0~2.0 m程度ずつ掘り進められます。最初に、発破などで岩盤を破砕し、破砕した岩盤片(ずり)を坑外に搬出します。次に、鋼製支保工建込み、コンクリート吹付け、ロックボルト打設といった支保部材の設置作業を行い、トンネルの安定を図ります。この一連の作業の流れを掘削サイクルといいます(図1)。これらの作業は、基本的に重複して行われることはなく、順番に進められていきます。これらの作業工程をタイムテーブルにしたものが掘削サイクルタイムです。
掘削サイクルタイム内の各工程はそれぞれクリティカルパスとなることから、トンネル掘削作業の効率化に向けては適切に把握し、作業改善を行うことが重要です。
これまでに、当社では、作業サイクルを把握する試みとして、重機にICタグなどをつけて稼働状況からサイクルを推定する方法などを試行してきましたが、データを集めるための手間とコストが課題でした。
2.山岳トンネル切羽作業サイクル判定システムの開発
当社と株式会社エルグベンチャーズは、山岳トンネルの切羽作業の監視用カメラの画像に着目し、その画像からAIにより掘削サイクルを極めて高い精度で取得するシステムを構築しました。
これまでのAIによる画像識別では、掘削サイクルのうち「削岩とロックボルト作業」、「鋼製支保工建込みとコンクリート吹付け」が、同じ重機を用いた類似作業であるため、その違いを正確に判別することは困難でした。今般は、AIによる全体画像の識別技術(写真1)に、物体検知アルゴリズムYOLO(注1)を用いてアームなどのオブジェクトを特定する技術(写真2)を組み合わせることよりこの課題を解決し、少ない教師データで類似作業を見分ける仕組みを構築しました。
3.本システムの特徴
本システムは、以下の特徴を有し、トンネルの専門技術者が画像を見て判別するのと遜色のない精度で、掘削サイクルデータを取得することができるようになりました。
- 切羽監視カメラの画像のみで、掘削サイクルデータを取得することが可能。
- 一般的な切羽監視カメラ画像をそのまま使用可能。
- 過去に記録した切羽監視カメラの画像データの分析も可能。
- 新規現場に導入する際の教師データによる学習の手間を最小化。
4.今後の展開
各トンネル現場に設置している切羽カメラで取得したデータの分析を行い、施工の無理・無駄を把握し、施工効率面・品質面での作業改善を行っていきます。
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YOLO(You Only Look Once)
リアルタイムでオブジェクトを検出するアルゴリズム

図1: トンネル掘削サイクル

写真1:切羽カメラ画像
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(a)エレクターの認識
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(b)生コン車の認識
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(c)火薬運搬車の認識
写真2:YOLOによる物体検知例