安藤ハザマ(本社:東京都港区、社長:野村俊明)は、大即信明(おおつき のぶあき)・東京工業大学名誉教授の指導のもと、2010年に実用化した「アクアカーテン®」(※1)を改良し、電気化学的補修工法(※2)としての適用を可能にしました。
1. 開発の背景
「脱塩工法」ならびに「再アルカリ化工法」は、電気化学的補修工法の一種で、塩害や中性化による劣化を受けた鉄筋コンクリート構造物に直流電流を通電することにより、健全な状態のコンクリートに回復させるものです。これらの工法を陸上構造物に適用する場合には、コンクリート表面に仮設陽極材を保持したり、コンクリートと仮設陽極材の間に電解質溶液を供給したりすることが必要となります。
一方、「アクアカーテン®」は、大気圧によって給水養生シートをコンクリート表面に貼り付け、均一な水膜を形成することで、鉛直壁面やトンネル覆工等のアーチ面に対しても、水中と同じような養生環境を提供できる給水養生工法です。
当社は、上記の特長を有するアクアカーテンを改良して、脱塩工法や再アルカリ化工法を陸上構造物へ適用する際に必要な、仮設陽極材の保持および電解質溶液の供給を実現しました(図1参照)。
2. 供試体を用いた補修効果の検証
海洋環境に40年間曝露され、塩害を受けた鉄筋コンクリート梁供試体に本施工方法を用いた脱塩工法を適用し、補修効果を検証しました。その結果、通電日数の延長に伴い、コンクリート中の塩化物イオンの除去量が増加することが確認されました(図2参照)。また、補修後には、鉄筋の腐食電流密度が不動態状態を示す0.2µA/cm2(※3)を下回る水準まで低下しました(図3参照)。
3. 実構造物に対する試験施工
27年間供用された建物の中性化を受けた屋内壁面に、本施工方法を用いた再アルカリ化工法を適用しました(写真1参照)。補修期間を通じて不具合なく施工でき、また、補修後の中性化深さも0mmとなり、期待される補修効果が得られました(写真2参照)。
なお、本試験施工は、デンカ株式会社(本社:東京都中央区)の協力を得て実施しました。
4. 今後の展開
当社は、アクアカーテンを活用した新しい施工方法による脱塩工法ならびに再アルカリ化工法を積極的に展開し、インフラ維持更新事業の推進に貢献してまいります。
-
アクアカーテン
壁面や凹凸面でもまんべんなくコンクリートの湿潤養生ができる給水養生工法で2010年に実用化。施工性に優れており、施工実績は実用化から5年間で50万m2を超えた。平成23年度土木学会賞(技術開発賞)および2012年日本コンクリート工学会賞(技術賞)を受賞。NETIS(新技術情報提供システム)登録番号:HR-110011-VE。 -
電気化学的補修工法
塩害や中性化による劣化を受けたコンクリートの表面に陽極材を仮設し、コンクリート中の鉄筋を陰極として直流電流を通電することで、劣化コンクリートを取り壊すことなく健全な状態に回復させる工法。環境にやさしくサステイナブルであることが特長。 -
不動態状態の判定
ヨーロッパコンクリート委員会(FIB)による腐食電流密度を用いた腐食速度の判定基準(表1参照)により判定。

表1:FIBによる腐食速度の判定基準

図1:アクアカーテンを活用した電気化学的補修工法の新しい施工方法

図2:塩化物イオンの除去量

図3:腐食電流密度

写真1:実構造物に対する試験施工状況

補修前(中性化深さ30mm)

補修後(中性化深さ0mm)
写真2:中性化深さの測定結果