安藤ハザマ(本社:東京都港区、社長:野村俊明)は、振動ローラによる盛土施工の高度化を目的として、龍岡文夫(たつおかふみお)・東京大学名誉教授・東京理科大学嘱託教授と、菊池喜昭(きくちよしあき)・東京理科大学教授の指導のもと、ICT(情報通信技術)を活用し、飽和度※注1による盛土の締固め管理(飽和度管理※注2)をリアルタイムで行うことができる「CCV-飽和度モニタリングシステム」を開発しました。
1. 盛土施工の管理手法
近年、大地震や集中豪雨などの自然災害によって道路盛土や宅地造成盛土などが崩壊する事例が増えており、これまで以上に高品質な盛土の施工が求められています。 従来から盛土の締固め施工の品質管理は、土の密度を指標とした密度管理※注3が主流です。密度管理では、締固めエネルギーと土質の状態が重要な要素になります。しかし、この二つの要素を、室内試験において実際の施工条件と完全に一致させることは難しく、試験結果に基づく合理的な施工管理が実際の施工現場で適切に実現できず、期待した成果が得られない場合もありました。 そこで最近は、土中の間隙に占める水の割合を示す飽和度に着目した品質管理手法が注目されています。飽和度管理は締固めエネルギーと土質の状態の影響を受けにくい最適飽和度※注1を指標とした新しい管理手法です。密度管理と合わせて飽和度管理を行うことで、盛土材の含水比管理と締固めた盛土の密度管理のみでは完全には防ぐことが難しかったオーバーコンパクション(過転圧)による土の強度低下や、比較的乾燥した土の浸水による強度低下・コラプス沈下※注4を回避することができます。
2. 飽和度管理のシステム化
振動ローラの振動による加速度応答値※注5と土の乾燥後の密度(乾燥密度※注1)の間には、飽和度をパラメータとして相関関係があることが判明しています。当社は、この相関関係を、当社が保有する技術「GPSと加速度応答値(CCV)を用いた土の締固め管理技術」※注6に応用し、それぞれの場所での飽和度をリアルタイムに把握できる施工管理システム「CCV-飽和度モニタリングシステム」(図1)を開発しました。 本システムは、振動ローラに取り付けたGPSと加速度計によって、振動ローラの位置情報と振動加速度波形を測定し、前述の相関関係から、含水比※注1を基に飽和度を推定してモニター画面に表示します。施工中の土の飽和度を面的(最小50cmメッシュ)にリアルタイムで把握でき、効率的な飽和度管理が可能となります。土の含水比は、ポータブルなRI水分計等を活用すれば素早く確認することができます。
3. 「CCV-飽和度モニタリングシステム」の施工実験による実証
酒井重工業株式会社(本社:東京都港区、社長:酒井一郎)と共同で、屋内の大型土槽(コンクリート製ピット)において12t級の振動ローラを用いた転圧実験を行い、本システムの検証を行いました(写真1)。その後、当社で施工中の複数の施工現場での実証試験も実施済みです。
4. 今後の展開
当社は、「CCV-飽和度モニタリングシステム」のNETISへの登録を予定しており、また、今後は本システムを総合評価方式の技術提案や当社施工工事に積極的に採用していきます。加えて、データベース化した既往データを活用して、盛土の施工品質・信頼性の向上、現場作業の効率化に寄与するよう、さらなる技術改良に努め、大規模な自然災害などにも負けない高品質な社会資本の整備に貢献してまいります。
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飽和度、含水比、乾燥密度、最適飽和度
飽和度とは土の間隙体積に対して水が占める体積の比率。含水比とは土粒子の重さに対する水の重さの比率。乾燥密度とは、土粒子の重さを土の体積で割った値。含水比を変えながら同一方法で締固めを行うと乾燥密度の最も高い含水比がみつかる。この含水比を最適含水比といい、このときの密度を最大乾燥密度という。最適飽和度とは、締固めが最も良い状態になる最大乾燥密度・最適含水比の時の飽和度であり、締固めエネルギーと土質の変化が一定の範囲内ならば概ね一定値を示す特徴がある。〔土の組成の概念図と飽和度の定義〕
(a)実際の土の状態 (b)モデル化 -
飽和度管理(飽和度による土の締固め管理)
龍岡文夫(たつおかふみお)・東京大学名誉教授・東京理科大学嘱託教授が提案した土の締固め管理手法で、土の最適飽和度を基準にして目標品質に応じて飽和度の管理範囲を設定する方法のこと。
【参考文献】
龍岡文夫. 盛土の締固めにおける飽和度管理の重要性(技術手帳). 地盤工学会誌. 2015, 63(7), pp.39~40〔盛土の飽和度管理の概念図〕
施工含水比と目標密度と飽和度幅で管理 -
密度管理(密度による土の締固め管理)
所定のエネルギーを用いた締固め試験(室内試験)で求めた土の最大乾燥密度と、現場で締固めた後の土の乾燥密度との比によって表わされる締固め度を指標として、土の締固めの品質管理を行う方法。 -
コラプス沈下
盛土完了後に浸水が原因と考えられる沈下が発生し問題となることがあるが、このような現象はコラプス沈下と呼ばれ、最適含水比よりも水分が少ない状態(乾燥側)で締固めた土などで生じることが多い。 -
加速度応答値(CCV)
振動ローラに取り付けた加速度計から得られる転圧時の加速度を周波数分析等して算出した値。一般的に、土の締固めの進行により地盤が硬くなると、加速度応答値(CCV)は大きくなる。 -
GPSと加速度応答値を用いた土の締固め管理技術
GPSによる振動ローラの軌跡データから、区画割りした面積(最小50cmメッシュ)ごとに転圧回数を積算して、土の締固め回数管理(工法規定)を行う。さらに、振動ローラに取り付けた加速度計の測定波形を分析して加速度応答値(CCV)を算定し、従来の点的な密度管理では不足していた面的な品質管理(品質規定)をリアルタイムに行うことができる。加速度応答値(CCV)と土の硬さ(地盤剛性)には良好な相関性があること利用している。

(図1)CCV-モニタリングシステムの概要

(写真1)CCV-飽和度管理システムの室内土槽実験による検証