安藤ハザマ(本社:東京都港区、社長:福富正人)と極東産業株式会社(本社:東京都千代田区、社長:中村俊介)は共同で、低エネルギー中性子による放射化を抑制する塗料材を開発しました。
1.開発の背景
放射化とは、中性子(注1)によりコンクリートや金属内の元素の一部が放射性となる物理現象であり、中性子が発生する研究施設や医療施設では、その施設内の人への影響やコンクリート等が放射化することによる放射性廃棄物の増加が懸念されています。
従来は、ポリエチレンとホウ酸を組み合わせた板状の樹脂材料や、研磨剤などに用いられている炭化ホウ素を混入した板状の樹脂材料などを利用して、平面の壁に対する放射化抑制対策が実施されていました。
2.本技術の特長
今回、両社は人への影響や放射性廃棄物の増加の主因となる低エネルギー中性子による放射化の抑制を目的とした最大約30mmの厚塗りが可能な塗料材の開発に成功しました。この塗料材はコンクリートや金属、ポリエチレン等の樹脂への塗布が可能で、平面だけでなく曲面などの複雑形状部にも直接塗布することができます。これにより、従来の板状の材料では必要であった下地材が不要となり、またコンクリート壁等の平面だけでなく、中性子の発生源となる複雑な形状を持つ装置類にも塗布することができます。(写真)
本塗料材は、塗料材に含まれる水素成分により中性子を減速させ、ホウ素化合物が中性子を吸収することにより、放射化を抑制します。
コンクリートの放射化抑制性能試験を実施した結果、本塗料材をコンクリートに10mm厚塗布した場合、コンクリートの放射化量は、塗布していない場合に比べて従来品と同等の約1/25に低減される事が確認されました。(表)
3.今後の展開
中性子はその有用性から、がん治療や高分子材料の構造解析 、水素吸蔵合金 の研究等に用いられます。安藤ハザマは、中性子を発生する加速器を用いたBNCT(注2)施設やPET(注3)施設、粒子線治療(注4)施設等の医療施設に多く携っています。また、極東産業は、放射線に強い素材や遮へいするための材料開発に取り組んでいます。がん患者の増加に伴い、今後、同様の施設の建設はさらに増加することが予想されます。加えて、中性子を利用する高分子材料の構造解析や燃料電池等の分析・研究施設への適用も今後期待されます。両社は、それらに対して本塗料材の導入を積極的に提案していく予定です。
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中性子
放射線の一種。中性子はがん治療や材料研究に有用である。一方、物質内の透過力が強く、また人体に与える影響も大きいため、安全上、徹底した遮へい・防護が求められる。 -
BNCT
ホウ素中性子捕捉療法。中性子とホウ素との反応を利用して、腫瘍細胞のみを選択的に破壊する治療法。 -
PET
ポジトロン断層法。心臓、脳などの体の中の細胞の働きを断層画像として示す検査法。 -
粒子線治療
陽子や重粒子ビームを用いて、がんをピンポイントで治療する治療法。


写真:開発した塗料材(左)と10mm厚に塗布した例(右)

表:本塗料材の放射化抑制性能試験結果
注:56Mn(マンガン56) 、24Na(ナトリウム24) は、両方とも放射化によりコンクリートに生成した半減期の短い放射性の物質。これらは主に被曝の原因となる。