技術概要
我が国では、城郭・寺社仏閣をはじめ河川構造物などに伝統的な工法で積まれた石垣が多数現存しています。こうした石垣は世界でも類を見ない空石積みによる曲面を有する構造物であり、文化財的に非常に高い価値があります。安藤ハザマでは、多くの施工実績により裏付けられた、石垣の調査・計測・安定性の評価のための技術を開発・保有しています。
特長
文化財石垣保全・修復・維持管理のために以下のような技術を開発・展開しています。
- 石垣内部構造の非破壊調査
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レーダー探査技術をいち早く石垣調査に適用し、豊富な探査実施例を元に的確に内部構造を把握します。こうした結果は、補修設計や安定性評価にも広く活用できます。
- 石垣の安定性解析
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石垣の静的・動的な安定性評価のためには数値解析が有効です。解析結果は大型振動台実験や原位置摩擦実験など豊富な研究データによる裏付けされています。
- 石垣勾配の設計
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城郭石垣の勾配の考え方を記した古文書を、現代の数式に置き換えた研究成果を取り入れ、容易に石垣の勾配設計をするための支援ツールを開発しました。
石垣内部構造の非破壊調査
石垣の維持管理や補修計画を立案する上で、築石の控え(奥行きの長さ)、栗石層の厚さ、地盤中の空洞やゆるみの有無など、その内部構造を知ることは非常に重要です。一方で、貴重な文化財を破壊することにつながる調査の適用は極力避ける必要があります。レーダー探査による石垣背面の探査技術は、非破壊で精度よく内部構造を知ることが可能な技術です。安藤ハザマでは、さまざまな石垣調査にこの技術を適用し、探査結果の適切な判読や精度の評価に関しても多くの研究成果をあげています。
石垣の安定性解析
城郭石垣は、セメントや漆喰等を用いておらず、石材同士のかみ合わせと摩擦力のみで構造体を作り上げています。こうした構造物の安定解析技術は確立しておらず、条件や目的に応じて様々な工夫が必要となります。当社では、複数の数値解析手法を石垣の安定性評価に適用し、その有効性を検証してきました。その中の一つである個別要素法(DEM)解析は、空積み構造の石垣をそのままモデル化することが可能であり、石垣の地震時の挙動の評価や対策工の効果の検討にも有効で、実際の石垣補修工事による安定性向上効果についても適用しています。
石垣勾配の設計
我が国の石垣の美しさを決定する要因の一つに、その曲線断面構造があげられます。この勾配の考え方はいくつかの古文書等に記載されていますが、専門家以外ではこれを読み解くことは困難です。当社では、関西大学の指導の下、古文書の勾配決定方法を現代の数式に置き換えて石垣の勾配を決定するための支援ツール「石積み助っ人」を開発しました。これにより、実際の石垣断面と理想的な勾配との比較や変状の評価も容易に実現できるようになりました。