日本画の歴史をつなぐ
足立美術館 新館
近代日本画の大家である横山大観のコレクションと、“日本一”と呼ばれる日本庭園で知られる足立美術館。その魅力をさらに広げる存在として、美術館開館40周年の節目に新設されたのが、現代日本画を展示する新館である。新館の完成により、足立美術館は、近代から現代へと続く日本画、さらにその先へと広がる現在進行形の日本画を楽しめる美術館へと進化を遂げた。
近代日本画から現代日本画へ広がる展示
足立美術館は、近代から現代、そして未来へと続く日本画の流れを体感できる美術館だ。館内に入ると最初に楽しめるのが、アメリカの専門誌から20年以上にわたって“日本一”の称号が贈られている日本庭園だ。
これは「親しみやすい日本庭園を最初にご覧になることで、日本画の世界をより身近に感じられるはず」という美術館創設者・足立全康氏の考えからつくられたものだ。美術館内の順路は、日本庭園を楽しんだ後は、近代日本画、そして現代日本画と、時代を追いかける構成となっている。
足立美術館は、近代日本画の大家である横山大観などの充実したコレクションからスタートしている。そして、美術館開館40周年を記念して、現代日本画を展示する新館を増設した。これにより足立美術館は「横山大観の美術館」という従来のイメージを超え、現代日本画を含めた新たな魅力を持つ美術館へ変貌した。
鑑賞体験を分断せず、本館と新館をどうつなぐか
足立美術館は、創設者・足立全康氏のコレクションをもとに開館した美術館である。現代日本画を展示するため、開館40周年の2010年に本館とは異なる役割を持つ新たな展示空間“新館”の増設が計画された。
そんな新館の増設にあたっては大きな制約があった。本館は自慢の庭園に囲まれるようなレイアウトになっており、本館エントランスのすぐ前まで庭園の一部となっていた。さらに、新館は本館とは道路を挟んだ位置に建てられる計画であったため、単純に建物同士をつなぐことはできなかった。
その庭園を損なうことなく、本館から新館へと続く鑑賞の流れをどのようにつなぎ、庭園景観の維持と鑑賞動線の確保をどう両立させるかが、本計画における大きな課題となっていた。
日本庭園を守るための選択
本館と新館をつなぐ方法として採られたのが、地下通路による接続である。
これにより来館者は、本館で美しい日本庭園や近代日本画を鑑賞した後、館内から続く地下通路を通って新館で現代日本画を見ることができる。地下を通すことで、公道を横断することなく、本館から新館へと鑑賞の流れを自然につなげている。
新館の意匠は本館の外観と仕上げに寄せつつも、外壁や建具に新たな素材や表現も取り入れた。これにより、統一感を保ちながら新館としての存在感も生み出している。さらに、展示室の温湿度は安定的に保たれ、演色性の高い照明が作品を引き立てている。
こうした工夫によって、建設時期の違いを感じさせない統一感とともに、庭園景観の維持と鑑賞動線の確保が両立された。
地域に根ざし、価値を生み続ける美術館
足立美術館のある島根県安来市は、関東だけでなく関西や九州の大都市圏からも遠く離れた立地にある。それでも“日本一の庭園”や、“国内屈指の横山大観コレクション”、そして最新の現代日本画という魅力をそろえることで、年間50万人以上の来場者をコンスタントに集めつづけている。
こうした美術館が地元にあることは、地域住民の誇りであり、地域ブランド価値の向上を意味する。経済価値だけでなく、地元で育つ若者たちにとっても、足立美術館があることで日本画という文化に触れる機会にもなっている。
安来出身で創設者でもある足立氏の地元への思いが息づくこの美術館。
安藤ハザマも、その価値を損なうことなく受け継ぎ、次の時代へとつないでいる。
美術品を守り、快適な空間をつくる 足立美術館 新館
足立美術館の新館建築にあたり、内部の空調や照明などの設備を担当したのが、村山一真(現・建築事業本部 首都圏設備工事部)だ。美術館という特別なプロジェクトでは、どのようなことが必要だったのか。当時を振り返ってもらった。
美術館空間を支える“建物の中身”
当時、私は入社4年目で、東京から大阪支店に転勤し、最初に担当した現場が足立美術館 新館でした。それまでは足立美術館について詳しく知らなかったのですが、話を聞くと日本庭園が有名で、そのような著名な施設に携われることが純粋に嬉しかったですね。
私の担当は、照明、空調、給排水衛生、換気などの設備施工管理です。建物づくりは、大きく“建築”と“設備”に分かれています。建築はコンクリートや鉄骨、外壁、内装などの、いわゆる器。これに対して、その中身となるのが設備です。
特に美術館では、作品を保護するだけでなく、来館者に快適に鑑賞してもらうため、空調や照明といった設備が重要になります。
私はそれぞれ設備を専門とする協力会社と連携しながら、建物全体を機能させていく役割を担っていました。現場全体を把握しながら調整していく仕事です。
美術館ならではの特殊性と難しさ
このプロジェクトで最も重要だったのは、絵画を保存・展示するための“温湿度管理”と“照明の当て方”でした。
美術館という性質上、絵画を守るための温湿度管理は厳格でした。通常のオフィスビルでは、湿度40%以上70%以下という努力義務が設定されています。それに対して、足立美術館では湿度の許容範囲が55%のプラスマイナス5%程度という超高精度の湿度管理が求められます。
また、コンクリートから発生する水分が絵画の保管環境に影響しないよう、水分を抜くために完成後の1か月間換気を回し続けるといった、美術館特有の工程も印象に強く残っています。照明メーカーの専門担当者と共に、展示される絵に対して照明の照度や位置を1枚ずつ細かく調整した経験も、美術館ならではの繊細な作業でした。
新館と本館の設備を接続する作業も難しかったです。増設された新館と本館の火災報知設備や警報設備をつなぐときには、本館の配線が古いために、正確な情報を把握できない箇所もありました。そのため、配線を1本ずつ確認しながらつないでいく地道な作業となり、苦労しました。
皆さんが「きれいだね」と喜んでくれる
私の20年近いキャリアの中でも、足立美術館 新館のプロジェクトは「特殊さ」という点では、最も印象に残っている現場です。その後、病院や工場、ベトナムの現場なども経験しましたが、美術館という特殊な用途でのシビアな温湿度管理のノウハウが、他の仕事にも大きく役立っています。
オープン時にお客様が入っていくのを見たときは、非常に感慨深かったです。裏方なので直接お話しすることはありませんが、皆さんが「きれいだね」と喜んでくれている姿を見ることが、建設業に携わる者として一番嬉しい瞬間です。
一度、家族を連れて行ったこともありますが、自分の仕事を形として家族に見せられるのは、この仕事の醍醐味だと思います。今でも、テレビなどで足立美術館を紹介する番組を見ると、誇らしい気持ちになります。
【工事概要】
| 工事名 | 足立美術館 新館建設工事 |
|---|---|
| 発注者 | 公益財団法人足立美術館 |
| 工期 | 2008年~2010年 |
地域のために生まれ、地域とともに歩み続ける意味とは
足立美術館は地域住民にとって、どのような意味があるのだろうか。
地域とともに歩む美術館の姿について、地元出身であり足立美術館の広報スタッフを務める仁田はるかさんに話を聞いた。
故郷への恩返しのために設立された足立美術館
当館は、地元出身である足立全康のコレクションをもとに、1970年に開館しました。全康は農家の長男として生まれますが、本人は商売の道に進み、事業が成功するとともに、優れた美術品の収集に力を入れました。
そんな全康がここに美術館を作ったのは、「故郷に恩返しがしたい」という思いがあったからだと聞いています。
実際に、安来市にある2つの高校で、卒業間近の生徒に対する無料招待を実施しています。郷土に誇りをもってもらい、将来的に、美術館や故郷の魅力を伝える伝道師になってほしいという願いがこもっています。
地域文化への貢献に感銘を受けて
全康は、自らの生まれ育った地域文化の発展を心から願っていました。
私も何度もこの美術館に足を運び、日本画をはじめとした美術品の質の高さや、庭園の美しさに感動していました。
美術館に感銘を受けて、私のように美術館に就職するスタッフも数多くいます。こうした足立美術館で働けることは、私にとっても誇りです。
地域の協力あって成り立つ美しさ
そうした足立美術館の地域への貢献は、地元から美術館への協力を得ることにもつながっています。
どういうことかと言えば、当館の日本庭園の眺めは、美術館の外にまで及びます。よく見ていれば気づくかもしれませんが、借景には電信柱などの人工物がありません。これは周囲の近隣住民や企業、自治体が、美しい景観を守るために協力していただけているからです。
当館の日本庭園の美しさは、地域の方々の協力があって初めて成り立つものなのです。
問い合わせ先:足立美術館
TEL:0854-28-7111(4月-9月 9:00-17:30/10月-3月 9:00-17:00)
https://www.adachi-museum.or.jp/
出雲・松江周遊グルメドライブ紀行
日本各地の優れた食と安藤ハザマの仕事をグルメドライブでつなぐ。
手がけてきた施工実績は人々に親しまれながら、地域の暮らしとともに時を重ねていく。
1978年創刊の自動車情報誌『CAR and DRIVER(カー・アンド・ドライバー)』とともに、
その周辺エリアで楽しめる絶品グルメや立ち寄りスポットを巡るドライブプランを紹介しよう。

(自動車誌『CAR and DRIVER』
優れた食と美しい自然が数多く存在する
クルマで出かけてみれば、人生の記憶に
汽水湖の宍道湖と日本海、長い歴史が生み出すグルメの数々
「す、も、う、あ、し、こ、し」と聞いて「相撲は足腰」と思う人もいるかもしれない。しかし、正解は島根県の宍道湖(しんじこ)の代表的な魚介を示す「七珍(しっちん)」だ。湖畔に松江がある宍道湖は汽水湖であり、非常に多彩な魚介類が獲れる。そのため100年ほど前に、宍道湖名物として、スズキ、モロゲエビ、うなぎ、アマサギ、シラウオ、鯉、シジミの7種が選ばれた。そんな七珍をまとめたのが「日本料理 松江和らく」の「七珍せいろめし」である。
7種類の食材を多彩な手法で調理し、最後に蒸し上げる。カラフルで奥深い味が楽しめる絶品だ。名物「シジミ汁」の美味しさも併せて堪能したい。
Pick up
松江市内に店を構える「日本料理 松江和らく」。1階の中心に大きな生け簀があり、山陰の優れた魚介類が楽しめる。松江自慢の「七珍せいろめし」だけでなく、しじみ汁や松葉ガニなどを提供する。ちょっと贅沢な時間が味わえる店だ
そして、もうひとつ見逃してはいけないのが「出雲そば」である。殻付きの玄そばを使うため、色が黒く香りが高い。丸い重ねた器を使う「割子そば」と「釜揚げそば」の2種類がある。どちらも、そばに直接、ツユをかける。コシの強さも特徴的だ。
最後のお勧めが、甘味の「ぜんざい」だ。なんと、その起源が出雲の神在祭でふるまわれた「神在(じんざい)モチ」の音韻が変化して「ぜんざい」になって広まったという説がある。ぜひとも起源の甘味を、発祥の地でいただこう。
Pick up
コシが強く香り高い「出雲そば」。「割子そば」(左)は丸い器の中のそばにツユをかけていただく。「釜揚げそば」は、器の中にそば湯とそばだけが入っていて、食べるときに好みの量のツユを加える
出雲の神在祭の「じんざいモチ」が「ぜんざい」の起源だという説がある。出雲大社周辺にある数多くの店で提供されている
大正時代に作られた診療所をリノベーションしたホテル「NIPPONIA 出雲大社門前町」。山陰の食材を使ったフレンチ料理を提供する安らぎと美食の宿だ。日本酒とのペアリングなど和のテイストが楽しめる
ロマンあふれる悠久の歴史と美しい自然を満喫
島根のドライブは、優れた食、悠久の歴史ロマン、そして美しい自然に満ち溢れたものとなる。歴史ロマンの最たるものが出雲大社(いずもおおやしろ)だ。こちらは日本のルーツを記した国譲りの神話の場だけでなく、奉られる大国主大神とスセリヒメ神の愛を由縁とする縁結びのスポットでもある。さらに北西に足を伸ばせば、高さ43.65mの日本一の高さを誇る石造灯台の出雲日御碕(いずもひのみさき)灯台がある。国指定重要文化財となる美しい姿はもちろん、灯台上からの眺めは絶景そのものだ。
ハンドルを山間に切って向かうのが、世界遺産に登録されている石見銀山。銀を採掘した坑道だけでなく、江戸の雰囲気を残す町並み全体が世界遺産のエリアとなる。ゆっくりと時間をかけて見て回りたい。
Pick up
日本のルーツにつながる神話の場となる出雲大社。クルマの交通安全の祈祷(5000円~)お勧めだ。周辺には名物の出雲そばやぜんざいを提供する店も並ぶ
約400年にわたって銀を採掘した石見銀山。江戸幕府直轄地だった当時の街の雰囲気をいまに伝える。ガイドツアーなどもあり、半日楽しめるエリアだ
さらにワインディングを走った先にあるのが奥出雲たたらと刀剣館。古代から続く、たたら製鉄と刀剣が楽しめるスポットだ。山間の最後の立ち寄りポイントは、尼子氏や毛利氏などが城主となった難攻不落の城、月山富田城(がっさんとだじょう)跡だ。戦国時代に思いを馳せたい。また、城跡裾野にある広瀬絣(ひろせかすり)センターで藍染体験(要予約)も思い出になるはず。
山間を抜けた先にあるのが、島根の誇る2つの湖、中海(なかうみ)と宍道湖。中海に浮かぶ大根島(だいこんじま)の観光スポットが由志園(ゆうしえん)だ。美しい日本庭園と山陰の旬を味わえる食事処が揃う。
ちなみに島から鳥取に向かう江島大橋(えしまおおはし)は、天空に向かって走っていくような急坂具合から「ベタ踏み坂」と呼ばれている。これもドライブ旅の思い出のひとつになるだろう。
最後の立ち寄りポイントが宍道湖湖畔にある松江市街地にある松江城だ。日本に現存する12天守のひとつで、国宝に指定されている。また、松江はNHKドラマ『ばけばけ』の舞台として、いままさに旬のスポット。松江城とあわせて楽しみたい。
Pick up
月山富田城跡の城跡裾野にある広瀬絣(かすり)センターは藍染体験(要予約)ができる。1時間ほどでハンカチの藍染を体験する。費用は1000円~
中海の大根島(だいこんじま)にあるのが、日本庭園で有名な由志園(ゆうしえん)だ。4個所の食事処と2つの喫茶がある。出雲そばなどの郷土料理も提供
Drive MAP
島根のドライブのキーとなるのが出雲と松江だ。宍道湖がある東の松江から、西にある出雲までは高速道路でアクセスできる。道程は約1時間。石見銀山や奥出雲たたらと刀剣館を巡る、全体1周のルートは約6時間強のドライブである。
【米子・松江~出雲】
Ⓑいまやひとつの映えスポットとしてSNSで話題になった「通称・ベタ踏み坂(江島大橋)」
Ⓒ日本一の牡丹苗の生産地。大根島にある牡丹と高麗人参の里、由志園
Ⓓ宍道湖は夕日の美しさも有名だ。松江市には「宍道湖夕日スポットとるぱ」がある
Ⓔ季節ごとの宍道湖七珍。松江自慢の旬を堪能できる、和らく
Ⓕ国宝に指定される松江城。島根県庁のすぐ北にあり、15分も歩けば天守にまでたどり着く
Ⓗ出雲大社の門前に佇む。大正期の趣を残す宿、NIPPONIA 出雲大社 門前町
【出雲~松江・米子】
Ⓑ日本神話に深く関係する出雲大社。観光客用に大きな無料駐車場が用意されている
Ⓒ島根半島の西端に立つ、白亜の出雲日御碕灯台。灯台の上が展望台になっている
Ⓓ出雲大社の西、日本海岸に稲佐の浜が広がり、ここに弁天島がある。無料駐車場あり
Ⓔエリア全体が世界遺産になる石見銀山。坑道のある龍源寺までは徒歩40分以上
Ⓕいまも古代からの鉄製法「たたら製鉄」の炎が燃えるのが「奥出雲たたらと刀剣館」だ
Ⓖ広瀬絣センターでは藍染体験で、江戸時代から続く手織りの技に触れることができる
Ⓗ月山に広がる月山富田城跡。駐車場は広瀬絣センター、安来市立歴史資料館を利用
Ⓘ日本画の大家である横山大観。その作品を数多くコレクションしているのが足立美術館だ
問い合わせ先/【米子・松江~出雲】
Ⓒ由志園/☎0852-76-2255
Ⓔ日本料理 松江和らく/☎0852-21-0029
ⒼNIPPONIA 出雲大社門前町/☎0853-31-4856
【出雲~松江・米子】
Ⓑ出雲大社/☎0053-53-3100
Ⓒ出雲日御碕灯台/☎0853-54-5341
Ⓔ石見銀山/☎0854-88-9950
Ⓕ奥出雲たたらと刀剣館/☎0854-52-2770
Ⓖ広瀬絣センター/☎0854-32-2575
Ⓗ月山富田城/☎0854-32-2767
Ⓘ足立美術館/☎0854-28-7111
取材協力/一般社団法人 出雲観光協会/公益社団法人 島根県観光連盟/松江市観光振興課/奥出雲町定住産業課/安来市観光振興課/大田市観光協会
【コンテンツ提供】CAR and DRIVER(株式会社カー・アンド・ドライバー)
※ このページは2026年5月時点の情報を元に構成しています。