失われた遺産を再び未来へとつなぐ
名古屋城本丸御殿復元
近世城郭の最高傑作のひとつと称された名古屋城本丸御殿。
かつて「尾張名古屋は城でもつ」と謳われたほど、
名古屋城は地域の人々にとって重要な存在だったが、戦火によって焼失してしまった。
それでも市民の復元を願う声は強く、募金や寄付によってその資金が集められた。
残された資料の解析からはじまり、良質な木材確保の取り組みをも含めた、
幻の国宝第一号を現代に伝える復元工事が進められた。その復元工事を担った安藤ハザマには、
過去の姿を寸分の狂いもなく現代によみがえらせるという挑戦があった。
江戸の美意識を体感する本丸御殿
尾張藩の威信を象徴する名古屋城のなかでも、格式と美意識を体感できるのが本丸御殿だ。
400年前の姿を取り戻した本丸御殿を訪れた誰もが、職人の手作業によって生み出された欄間(らんま)などの細工の緻密さや豪華さに感動し、使われる木材の美しさに驚くだろう。そして端正に整えられた空間に思わず感嘆の声がもれるはずだ。まるで江戸時代にタイムスリップして将軍家の一員になったような感覚を楽しむことができるのだ。
本丸御殿は、1930年に名古屋城の天守閣とともに国宝第一号に指定されたが、1945年の空襲により焼失。それでも、この御殿の復活を願う市民の想いは途切れることがなかった。
その後、名古屋城本丸御殿積立基金の募金活動や寄付が、再びその姿をよみがえらせる力となった。そうした願いの背景には市民の誇りと愛情があり、この空間が持つ美と文化が、時代を超えて受け継がれるべきものだという強い思いがあったからにほかならない。
本丸御殿には、世界中から多くの観光客が訪れ、江戸時代の美意識そのものを体感できる場として、今も多くの人を惹きつけている。
文化と伝統の復元への挑戦
名古屋城本丸御殿復元プロジェクトでは、品質やその工法だけでなく、その材料に至るまで往時のままであることが求められた。しかし、それだけでは本来の本丸御殿がよみがえるとはいえない。最大の課題は、受け継がれてきた文化や伝統工法を現代に伝えるという点にあった。
焼失前は国宝に指定されていたため、江戸期当時の文献だけでなく、明治・昭和期の写真、実測値などの資料も残っていた。だが、年代の異なる資料同士の細かい寸法や意匠の食い違いなど、何をどのように解釈し再現すべきか、その判断一つひとつが完成した御殿の存在感や空気感を左右することとなる非常に繊細な準備が必要だった。
近世の最高傑作を現代によみがえらせ、未来に伝えていくという困難な挑戦。これこそが名古屋城本丸御殿復元プロジェクトの出発点だったのである。
“体感できる”伝統を実現する現代の匠の技
復元にあたって、素材や意匠、仕上がりを史実に忠実に再現することは前提にすぎない。
当時と同じ伝統工法や手作業を基本とした匠の技術を軸に進めるその一方で、過去をなぞるだけではなく、歴史的価値を損なうことがないかたちで、見えない部分には耐震技術などの現代技術も取り入れ、耐震性と安全性を確保することも求められた。
また、復元に使われる最高級の木曽檜を確保するため、長野県木曽郡と岐阜県中津川市での植樹・育樹活動の取り組みとして「名古屋市民の森」が発足、地域の絆も深められた。
より正しく復元するため、意匠の納まりや仕上がりは、どこを守りどこを現代に委ねるのか、何重もの厳正なチェックを重ねていった。そうした一つひとつの丁寧な積み重ねが、復元建築という枠を超えて、江戸時代の美意識を体感できる空間をよみがえらせることにつながったのである。
未来に継承される技術と文化
本丸御殿は、1615年に建てられ、1945年の焼失まで、およそ300年にわたって日本を代表する近世書院造りの御殿としてその姿を保っていた。
安藤ハザマが担った名古屋城本丸御殿復元プロジェクトによって復元された本丸御殿に足を踏み入れると、そこはかつてのそれと同様、往時の徳川家の隆盛と権力を肌で感じることができる。それは本丸御殿がもつ意匠や装飾の美しさだけではなく、建築当時そのままの工法・技術によって、空気感までもがよみがえったからこそである。
その工法・技術は次の時代へと継承していくことになる。そしてこれからも数百年先の未来に向けて、その文化と技法は受け継がれていくだろう。
別格の仕事に挑むという“やりがい”と“誇り”
名古屋城本丸御殿復元
400年前の建物を復元するだけではなく、歴史そのものを復元させるという名古屋城本丸御殿復元。
2代目所長として2012年から完成まで携わったのが吉原一彦(現・建築工事管理部)だ。
近世の最高傑作の復活に携わる苦労や意気込み、誇りなどを語ってもらった。
希少な素材から最高の品質を求める難しさ
この本丸御殿は、建造物としても装飾品としてもグレードが高い工事です。
そのためすべてのものに、高いスペックが求められました。特に大変だったのは木材ですね。木は切り取る場所によって、強度や、変形の度合い、見た目が変わってくる。無節心去り赤身材を使用し、柾目(まさめ)は年輪幅が細かなもの、そして色などにもこだわりました。また、板目については木目柄にもこだわりましたが、なかなか狙ったとおりに木材を取れません。節や割れが出て使えないこともよくありました。
そうすると新たに仕入れないといけませんが、それが難しい。一時は国内の木材業者を探しても足りないこともありました。特に貴重で最高級の木曽檜になると、もともとの数が少ないため、さらに難しく、まるで宝くじを買うようなものでした。
復元工事ならではの難しさ
文献や写真、測量データが豊富に残っているのですが、それが難しさにもつながっているんです。
残された資料は江戸時代から昭和初期まで年代によってさまざまで、詳細な寸法がわかるからこそ、出来上がった後に数ミリ違うとやり直すこともありました。また、つくった後で写真資料が見つかったこともありました。上台所の工事を進めている時に煙突の写真が出てきましたが、当時の図面・資料に煙突はなかったんですね。図面にはないのに、写真にはあるっていう年代が違う資料同士の食い違いもありました。
どちらを優先すべきなのか協議した結果、一度完成した部分を壊してつくり直したこともありました。
新築であればそういうことはありえません。これが国宝レベルの建築物を復元させる難しさですね。
誇りを胸に一体感を持って立ち向かう
今回のプロジェクトは、本当にすごい人たちが集まっていたのです。
協力いただく職人さんは、今でも国宝の修理をやっていてその世界の生き字引みたいな人もいました。工種によっては監修の有識者の先生より職人さんたちの方が多くの情報や知識を持っていることもありました。本当にすごい人たちばかりです。技術に対するこだわりも強いですし、自負もある。そうした職人さんたちをチームとしてまとめる大変さもありました。
ただ、そうした職人さんも、この本丸御殿は格別だと思ってくれていました。この仕事にやりがいを感じ、携われることを誇りに思ってくれていたようで、最後には、つくるものに対する思いの部分で一体感が出てきました。
今、振り返ってみれば、すごいものを自分たちでつくったなと思います。特に本丸御殿は、世界中から、たくさんの観光客に見てもらえています。これほど見てもらえるものって、他になかなかありませんからね。
【工事概要】
| 工事名 | 名古屋城本丸御殿復元工事 |
|---|---|
| 発注者 | 愛知県名古屋市 |
| 工期 | 2008年12月~2018年3月 |
名古屋・知多半島周辺のグルメドライブ紀行
日本各地の優れた食と安藤ハザマの仕事をグルメドライブでつなぐ。
手がけてきた施工実績は人々に親しまれながら、地域の暮らしとともに時を重ねていく。
1978年創刊の自動車情報誌『CAR and DRIVER(カー・アンド・ドライバー)』とともに、
その周辺エリアで楽しめる絶品グルメや立ち寄りスポットを巡るドライブプランを紹介しよう。

(自動車誌『CAR and DRIVER』
人生をより豊かにしてくれるのが、美しい自然と優れた食を求める旅だ。
日本全国に存在する優れた食、いわゆる“優食”を求める旅。今回は名古屋を起点に南下し、
知多半島をドライブする。果たして、どんな名物に出会えるのだろうか。
名古屋グルメとともに、知多半島の魅力を味わう
名古屋エリアの優れた食といえば、ひつまぶしとみそ煮込みうどんで間違いない。ひつまぶしは名古屋発祥のグルメ。本場でこそ味わいたい逸品のひとつである。みそ煮込みうどんは、中京エリアのソウルフード、八丁みそが決め手で、これも外せない逸品だ。
そんな、美味しいひつまぶしを求めて立ち寄るならば、明治42年創業の錦のいば昇。まずは、丁寧に焼き上げた蒲焼をそのまま味わい、最後に煎茶でサッと流し込む。戦後間もないころのレトロな雰囲気の老舗でいただく味は、やはり格別だ。
みそ煮込みうどんは、常滑にある盛田 味の館で頂戴しよう。日本酒と味噌を350年も長きにわたって作り続ける、指折りの老舗みそ蔵である盛田の食事処だ。土鍋で提供されるみそ煮込みうどんは、みそのコクと出汁の旨味がバランスしたスッキリ味。ちなみにここはソニー創業者・盛田昭夫氏のご実家なのは知る人ぞ知るところ。
Pick up
海沿いの道に建つ、180年前のみそ蔵を改装した盛田 味の館。みそ、醤油、日本酒の老舗、盛田の食事処だ。
名物のみそ煮込みうどんをはじめ、みそ田楽(写真・700円)やおでん(450円)、定食類を提供している。販売される盛田の日本酒はお土産にぴったり
Pick up
錦に店を構える、いば昇。ひつまぶし発祥の店のひとつに数えられる、明治42年創業の老舗だ。地元のたまり醤油を使うタレは甘さ控えめで、備長炭で焼き上げたうなぎの風味を引き立てる。優しい味のう巻き(600円)も絶品だ
ドライブのひと休みにお勧めのスポットが、カフェとレストランが揃うDRIVE IN ROUTE 37。特筆すべきは海まで0mを謳うテラス!伊勢の海を眺めながらお茶や食事が楽しめる。また、常滑には地元のたまご農家が手がけるココテラスの丘がある。新鮮たまご、そしてパンやデザートなども楽しめる、多彩な優良スポットだ。
Pick up
海沿いに複数の店が並ぶ、DRIVE IN ROUTE 37。写真は、37 CAFE & BBQのバイカーズプレート(1680円)。海に面したテラスで、お茶や食事が楽しめる
地元のたまごを使う3店舗が集まった、ココテラスの丘。左の写真はお菓子店のココテラス by デイリーファームで人気の「たまごいっぱいプリン」
やきものの街、海、夕日を楽しむ旅
名古屋の南、伊勢湾に突き出た知多半島には、ドライブで寄りたいスポットがそこかしこにある。朝に名古屋市街からクルマを走らせれば、昼前には常滑に到着できる。常滑は1000年も前からやきものが盛んで、日本六古窯のひとつとして日本遺産にも認定されている街だ。そんな常滑だから訪れたいのが、やきもの散歩道。街中心部の小高い丘にあり、レンガ造りの煙突や窯などが散在する。
1000年を超える歴史を感じる散歩を楽しめる。
Pick up
常滑のやきもの散歩道きっての映えスポットが土管坂。明治初期の土管と昭和初期の焼酎瓶が壁面を形成。市内に多数ある陶芸教室へ参加するのもお勧め
常滑で人気のスポットに立ち寄るならば、常滑りんくうビーチも外せない。オフシーズンならではの落ち着いたビーチで、ゆったりとした気分に浸れる。また、常滑りんくうビーチは美しい夕日が楽しめるスポットでもある。今回の取材中にも、夕日を眺めにドライブの途中に立ち寄る観光客を数多く見かけた。ダイナミックに変化する夕焼けの表情は、時が経つのを忘れてしまうはずだ。
りんくう展望広場駐車場で夕景を楽しむマセラティ・グランカブリオ・トロフェオ。セントレア(中部国際空港)と名古屋を結ぶ名鉄空港線の線路が作り出す広がりのあるダイナミックな風景が美しい。
知多半島の海沿いを南下する途中にあるのが、愛知県最古の野間崎灯台だ。伊勢湾に沈む夕日を眺めるロマンチックな場所として恋人たちに大人気。「恋する灯台」とも呼ばれているとか。
海を感じ、景色を楽しむドライブの末にたどり着くのが、知多半島 海のしょうげつ。こちらは南知多の丘の上にある宿で全室に露天風呂を完備。海を眺めながら贅沢に初日の旅の疲れを癒す。
宿泊翌日の朝に訪れたいスポットは、知多半島南端にある師崎漁港の朝市だ。水曜を除く毎朝開催されており、新鮮な海産物や地場の干物など、ここだから買える品々が並ぶ。知多半島ドライブの締めとなるスポットとなる。
素晴らしい食を味わい、見事な景色を楽しみ、ゆったりとした時間を過ごす。移動そのものも、クルマとの対話を楽しめる、貴重な時間だ。知多のドライブは、人生を豊かにする旅といえるのだ。
Pick up
伊勢湾の景色を楽しめる、知多半島の丘の上にある宿が、知多半島 海のしょうげつ。伊勢湾の魚介と地元野菜を使った京懐石ベースの食事も人気の理由
知多半島の最南端にある師崎港では、毎朝(水曜を除く)、師崎漁港朝市が開かれている。販売される地元の新鮮な魚介、干物・佃煮などは、土産に大人気だ
Drive MAP
名古屋市内から知多半島の入り口となる常滑までは、クルマで1時間半強といった距離感だ。そこから、知多半島の先端となる師崎港までは1時間弱。眺めのよい海沿いの道をのんびりと走る、リラックスした旅となる。
Ⓐ名古屋城本丸御殿は全12棟構成。こけら葺き(一部本瓦葺き)、土壁漆喰塗り仕上げ
Ⓑ明治42年創業の錦の老舗、いば昇。ひつまぶし発祥店のひとつといわれる
Ⓒ常滑は日本六古窯のひとつとして日本遺産に認定。陶芸体験も楽しめる
Ⓓ海に面したエリアに、カフェやレストランなどが集う、DRIVE IN ROUTE 37
Ⓔ知多半島 海のしょうげつは海に面した客室と、地元の魚介・野菜を楽しめる宿
Ⓕ師崎漁港では、毎朝8時から正午まで朝市が開かれている(水曜定休)
Ⓖ日本酒・味噌・しょう油を350年以上作り続けてきた盛田の食事処、盛田 味の館
Ⓗココテラスの丘には、タマゴを使った、お菓子、料理、パンの3つの店が並ぶ
Ⓘ中部国際空港セントレア対岸の常滑りんくうビーチは夕日の美しさで知られる
問い合わせ先/Ⓐ名古屋城(名古屋市観光文化交流局名古屋城総合事務所):☎︎052-231-1700 Ⓑいば昇:☎︎052-951-1166 Ⓒ常滑市観光協会:☎︎0569-34-8888(とこなめ観光案内所) ⒹDRIVE IN ROUTE37(37CAFE & BBQ/Good Luck):☎︎0569-62-1937(37CAFE & BBQ) Ⓔ知多半島:海のしょうげつ:☎︎0569-62-3960 Ⓕ師崎商工会(師崎漁港朝市):☎︎0569-63-0349 Ⓖ盛田 味の館:☎︎0569-37-0733 Ⓗココテラスの丘:☎︎0569-36-7060(ココテラス) Ⓘ常滑りんくうビーチ:☎︎080-2632-7228
【コンテンツ提供】CAR and DRIVER(株式会社カー・アンド・ドライバー)
※ このページは2026年1月時点の情報を元に構成しています。