地域を守るインフラ整備 最前線の現場
新潟市北区松浜は、阿賀野川河口と日本海に近い港町エリアで、古くから漁業や水運によって発展してきた。阿賀野川対岸には新潟空港があり、現在は住宅地を中心としながら、その立地の良さから港湾施設や工場などが立ち並ぶ地域である。
平均海抜が約1.0mと低い土地であることから、長年、洪水や高潮、津波などの災害リスクに対する備えが重要とされてきた地域で、特に近年激甚化している豪雨時の床上・床下浸水への対策が地域課題となっている。同地区で1960(昭和35)年から稼働している「松浜ポンプ場」の設計降雨強度は当時のものであり(19㎜/時相当)、耐震・津波への対応も想定されていなかった。こうした課題を解決すべく計画・施工されたのが「松浜雨水ポンプ場調整池」である。ちなみに雨水の貯留機能は16,500㎥(25mプール約57杯分)で設計され、設計降雨強度は19㎜/時相当から約50㎜/時に、ポンプ(排水)能力は現状の3.126㎥/秒から4.0㎥(25mプールを72秒で空にできる能力)へと引き上げられている。
坂本所長
「水を漏らさぬ」構造物の築造に向けて
所長の坂本は開口一番「本工事は高い止水性能が最も重要なテーマでした。擁壁で確実に止水することを前提とした工法を提案しましたし、コンクリートも漏水しにくい仕様へ変更しました」と語った。その言葉は現場事務所掲げられた『漏水のないコンクリート構造物の築造』という作業所長方針に集約されている。
調整池を地下に築造するにあたり、最初に行うべき工程は「掘削する際に周囲から水が入り込まないように周囲を囲む(地中連続壁による止水壁の構築)こと」となる。
新潟特有の軟弱地盤と高い地下水位への対応が大きな課題となった。この地域は地表から数十cm掘削しただけでも地下水が確認されるほど地下水位が高く、また砂礫を中心とした軟弱な地盤であるため、擁壁による止水が不完全だと本体構造物築造のために掘削した際、擁壁からの漏水や掘削面から水や砂が噴き上がる「ボイリング現象」の発生が懸念される。
このような状況から、TRD工法が採用された。この工法は、チェーンソー状の掘削機を用いて連続的に地中壁を造成するもので、深部まで一体性の高い止水壁を構築することで安全に掘削施工ができた。
TRD 工法(出展:TRD工法の原理 | TRD 工法協会HP)
構造物に用いるコンクリートについては、漏水しにくい仕様への変更を提案した。型枠に流し込まれた生コンクリートは、乾燥によって体積が小さくなること(乾燥収縮)や外気温との差による膨張・収縮(温度応力)によってひび割れが生じる。これを100%回避することは難しいが、坂本と副所長の日向は過去の築造経験を踏まえ、温度ひび割れ抑制効果のある中庸熱ポルトランドセメントを採用した。これにより、コンクリートのひび割れ発生を抑制し、長期的な耐久性向上につなげている。
さらに地下構造物では完全に漏水をゼロにすることは難しいという前提に立ち、万が一漏水が発生した場合でも補修作業を行いやすい構造や施工方法をあらかじめ取り入れるなど、維持管理まで見据えた施工が進められた。特に打継部や打重部など漏水リスクが高い箇所を重点管理し、各工程で細かな確認を徹底した。
「どれだけ対策を施しても漏水は発生します。ですから、発生した際にいかに適切・迅速に補修できるか、を施工段階から準備していました。施工中だけでなく完成後の維持管理までを考えた施工をするんだ、という考えは所長以下、現場全体で共有されていました」(日向)
こうした取り組みにより、現場では止水性能の向上だけでなく、施工性や維持管理性を含めた総合的な品質向上が図られた。「漏水の箇所は体感で3分の1に減った」(日向)と振り返っており、現地視察を行った発注者からも、施工品質や仕上がりへの高い評価につながった。
日向副所長
支保工には高強度部材を使用し、安全性と高い施工性を両立させている
丁寧な施工でクラックや漏水が抑えられた壁面
コンクリートの繋ぎ目に止水用高性能ウレタンを注入する
インジェクションチューブ
地域の自然を守る現場づくり
松浜雨水ポンプ場調整池工事では、安全対策に加え、周辺環境への配慮も重要な取り組みとして進められた。特に隣接する「ひょうたん池」は、新潟市内に16カ所存在する潟の一つであり、希少な生態系を有する自然環境として知られている。現地では希少生物「オオモノサシトンボ」の生息も確認されており、工事による影響を抑えることが求められた。
現場周辺と「ひょうたん池」は地下水がつながっている可能性もあったことから、工事による地下水への影響を確認するため、年4回のモニタリング調査を実施。池の水位や水質を継続的に観測し、季節ごとの変化も含めて慎重に確認した。さらに定点写真による記録も行い、周辺環境の変化を継続的に把握する体制を整えた。
地域の自然環境と共存しながら工事を進めたことも、本工事の大きな特徴の一つとなった。
作業員と地域住民を守る現場体制
周辺住民への配慮も、安全管理の重要な取り組みとして進められた。工事ピーク時には1日100台を超えるダンプの搬入出があったが、近隣の小中学校の登下校時の安全を確保するため、通学時間帯の車両通行を制限した。周辺への騒音・振動対策として重機や発電機の運転管理を徹底することで、周辺環境への影響低減に努めた。また、自治会への定期説明や「松浜だより」の配布を通じて、工事内容を共有し、地域の理解と協力を得ながら施工を進めた。
「本工事は公共性が高く、また住民の皆様も待ち望まれている設備です。行政との連携も円滑に行えていることもあり、大変好意的に受け入れていただいています。しかし、工事をしている以上は大型車両の出入りや騒音・振動は避けられません。作業員の安全はもちろんですが、いかに住民の方々に安心していただけるか好意的に受け入れていただいているからこそ、その信頼にお応えするため、誠意ある対応を心がけています」(坂本)
現場全景 2026年6月現在、コンクリートの打設はほぼ完了している
神殿のような内部
足場はほぼ解体されている、それでも迷路のようだ
民家が近く騒音には気を配った
若手社員が語る、新潟の現場で学んだ成長とやりがい
この現場では測量、安全管理、品質管理、工程管理など幅広い業務を少人数で担当しており、一人ひとりが多くの工種に関わっている。特に安全管理を重視しており、「まず自分がケガをしないこと」を意識しながら、現場全体を見て行動していると若手社員の高島は話す。
「1年目は検査書類や施工記録の作成など、覚えることが多く戸惑う場面もありました。それでも、経験を重ねる中で業務の流れや現場全体の動きが少しずつ理解できるようになり、自身の成長を実感した。また、天候を考慮した工程調整や職人との打ち合わせなどを通じて、現場を円滑に進めるためのコミュニケーションの大切さも学びました」(高島)
さらに、主任クラスの先輩の異動後には任される業務の幅が一段と広がり、工程管理などにも携わるようになった。若いうちから多くの経験を積める環境が、自身の成長につながっていると感じているという。
もう一人の若手社員の青木は、災害復興や地域インフラ整備に携わりたいという思いを語った。「地域の安全を守り、人々の生活を支える構造物をつくることにやりがいを感じており、地域の方々と一緒にものづくりをしている感覚がある」と話す姿が印象的だった。
技術部門への異動が決まり、次の挑戦が始まる(高島)
クールな印象とは裏腹に、災害復興に情熱を燃やす(青木)
Project Team
坂本所長
日向副所長
高島
青木
工事概要
| 工事名 | 下管第25号 松浜雨水ポンプ場調整池工事 |
|---|---|
| 発注者 | 新潟市 |
| 工期 | 2022年3月~2026年10月 |
| 概要 | 雨水調整池築造 貯留量 16,500㎥ |
| 取材時期 | 2026年5月 |