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国道の真下を掘り進む!都市型トンネルの施工法とは?
東北から九州まで日本のあちこちの現場におじゃましてきたアンころとハザ麻呂。
今回は初の東京都の現場をレポート!
アンころ | 「約1年半ぶりのゲンバる、楽しみ〜!今日の現場はトンネルだよ」 |
ハザ麻呂 | 「トンネルの現場は過去に行ったであろう。わざわざ出向かずとも、知りつくしておるぞ?」 |
アンころ | 「わかってないな〜。 トンネルにもいろいろな施工法があるんだよ。 しっかりレポートしてね!」 |
事務所で迎えてくれたのは、所長のQちゃんと事務担当の笑顔がかわいいりんちゃん。
共同溝で交通渋滞を軽減&災害に強い街をつくる
アンころ | 「地下に“共同溝”をつくる工事とのことですが、共同溝ってなんですか?」 |
Qちゃん | 「道路の下には、生活に欠かせない電気、ガス、上下水道、通信などのライフラインのケーブルや管が埋められている。これらは個々に埋まっていて、メンテナンスのたびに道路を掘り返す必要がある。それが交通渋滞の原因として問題になっているんだ」 |
ハザ麻呂 | 「確かに、道路工事による渋滞はよく見かけるのう」 |
Qちゃん | 「共同溝は、これらをまとめて収容する施設。共同溝に収めることで掘り返し工事による交通渋滞を減らし、ライフラインの安全性も確保できるんだ」 |
りんちゃん | 「頑丈な共同溝によってライフラインが守られ、災害に強い都市にも近づくんですよ」 |
Qちゃん | 「今回の工事では、電気・通信施設の共同溝として、国道20号の真下に5.4kmの区間で、内径3.5m(外径3.9m)のトンネルを整備するよ」 |
ハザ麻呂 | 「国道20号といえば甲州街道とも呼ばれ、交通量の多い道路のはず。なぜわざわざそんな場所に工事をするのかな?」 |
Qちゃん | 「地下といえども、発注者である国土交通省が所有する土地、つまり国道の下に掘るのが条件なんだ」 |
りんちゃん | 「現場ではモノをつくるだけでなく、法令や基準に則った書類を作成する必要がありますし、他にも作業所内の環境を整備するなど、様々な仕事があるんですよ。私も事務担当として、細かな配慮ができるように気を引き締めています!」 |
ダイナマイトはご法度!都市型トンネルに適した「シールド工法」
アンころ | 「地下から地下へのトンネルってどう掘るんですか?山岳トンネルみたいに地上からのスタートはできませんよね」 |
Qちゃん | 「最初に立坑(たてこう)という地上からトンネルへの“縦の穴”をつくってから、共同溝となる “横の穴”を掘るよ。今回の工事では、区間5.4kmの間にスタート地点(発進立坑)をつくり、郊外側・都心側の2方向に掘り進める。すでに郊外側の工事は完了していて、現在は都心側を進めているよ」 |
Qちゃん | 「立坑は完成後も残し、収容物の分岐地点として、また坑内の換気や作業をするときの出入り口に利用される。途中につくる中間立坑も含めると全部で7つだね」 |
ハザ麻呂 | 「それにしても、交通量の多い国道の地下でダイナマイトを発破するとは、なかなかデンジャラスじゃのう…」 |
Qちゃん | 「おっと、ダイナマイトは使わないよ(笑)。施工は『シールドマシン』という巨大な機械をつかう『シールド工法』。街の地下深くなど、地盤が軟らかいところに適しているんだ。詳しくは現場で話そうか!」 |
道のど真ん中に建つ謎の「防音ハウス」とは!?
事務所から歩くこと約5分。国道20号に到着したQちゃんとアンころ・ハザ麻呂。
Qちゃん | 「あそこが発進立坑だよ」 |
そこには奇妙な建物が…。
そこで待っていたのは、立坑を担当するユウタロー。
ユウタロー | 「ここは発進立坑でもあり、資材を置いたり地下で掘った土を運び出したりする場所。工事の騒音を防ぐ設備がされているので“防音ハウス”と呼ばれています」 |
アンころ | 「どうしてこんな国道のど真ん中に建てちゃったんですか?」 |
Qちゃん | 「共同溝を国道の真下につくるから、立坑も国道に設置するしかなく…苦肉の策ではある(苦笑)。発進立坑は、こうして常設の施工ヤードを設置することで、交通規制をすることなく資材の搬入や掘った土の搬出をしているんだ。一方で、常設の施工ヤードが設置できない中間立坑では、資材の搬入は交通量の少ない夜間にまとめて行うようにしているよ」 |
ユウタロー | 「交通規制は夜9時〜朝6時と決まっているので、時間を過ぎてしまうと渋滞が発生して通勤・通学に迷惑をかけてしまう恐れも。事前のスケジュール管理とその場での状況判断が求められます。プレッシャーはありますが、同時にやりがいも感じています」 |
「ここが立坑だよ」と、Qちゃんが指差したのは…わずか2m×3mの穴?
Qちゃん | 「トンネル工事に関する資材は、すべてここから上げ下ろしするよ」 |
ハザ麻呂 | 「でも、こんな小さな穴では大きな機械が入らぬぞ?」 |
Qちゃん | 「どんなに複雑な機械でも、入る大きさになるまで分解して地下で組み立てるんだ。直径4mのシールドマシンも分解して組み立てたよ」 |
アンころ | 「大事な国道だから、穴は極力小さくなるように工夫されているんですね」 |
トンネル内部へ!そこには意外な罠が…?
それではいよいよ地下へ!地下18mまでひたすら続く階段を降りると、待っていたのはシールド担当のしょこたん。
2つのトンネルに続く入口があり、それぞれのトンネルには線路が敷かれている。
しょこたん | 「資材や掘った土をズリ鋼車に載せて、バッテリーロコ(蓄電池式機関車)で運搬します。掘り進めた分だけ線路を敷くので、トンネルの先端までつながっていますよ」 |
アンころ | 「この線路の先にシールドマシンがあるんですね。では早速、行きましょう!」 |
Qちゃん・しょこたん | 「……」 |
あれ?何やら2人の様子が…。
Qちゃん | 「……本当に行く?」 |
ハザ麻呂 | 「無論じゃ。いざ参らん!」 |
しょこたん | 「……いいんですね?」 |
アンころ・ハザ麻呂 | 「???」 |
トンネルの先端を目指して歩き始めた4人。
Qちゃん | 「坑内はWi-fiが整備されていて、スマホで自由に連絡がとれるよ。それに涼しいでしょう?今日は30度超えの真夏日だけど、ここは年中20℃前後なんだ。ダクトで常に換気も行われているよ」 |
ハザ麻呂 | 「うむ。思った以上に快適じゃ。ところでQちゃん所長…シールドマシンはどこかな?さっきからずっと歩いておるのに、一向に見える気配がないが」 |
Qちゃん | 「……いま歩いている都心側のトンネルは全長3536mで、シールドマシンは到達まで残り200mのところまで進んでいるね」 |
アンころ | 「えっ!?ということは…」 |
Qちゃん | 「シールドマシンに出会うまでは、片道3.3km超を歩かないといけないってわけ。もう引き返せないよ〜フッフッフ」 |
しょこたん | 「行く前に確認しましたよね〜?さぁ、どんどん進みましょう♪」 |
アンころ・ハザ麻呂 | 「だ、だまされた…」 |
掘って、集めて、壁まで付ける!優秀すぎるぞシールドマシン
Qちゃん | 「まだまだ到着までかかりそうだし、歩きながらシールド工法の説明をしようか。掘削に使うのは、巨大な筒型のシールドマシン。マシンの先にあるカッターヘッドを回転させて、モグラのように土の中を掘り進むんだ」 |
しょこたん | 「シールドマシンは、掘るだけじゃないんです。掘った土を取り込んだり、壁を付けることもできるんですよ」 |
Qちゃん | 「一定の距離を掘り進めたら、トンネルの壁に『セグメント』という鉄筋コンクリートのブロックをはめこむよ。トンネルの壁がリング状になっているよね?この現場では、6つのセグメントを合わせると1つのリングができるんだ」 |
Qちゃん | 「セグメント1枚分の幅1.2mが掘れたら、セグメントを設置。この作業を繰り返しながら掘り進める非常に地道な作業なんだ」 |
アンころ | 「シールドマシンの中でトンネルを作りながら進むんですね。マシンの中で壁を組み立てるから、崩れやすい都市の地盤でも安全に掘れるというのも納得です」 |
しょこたん | 「シールドマシンで1日に掘削できるのは、調子が良くて18mほど。昼夜2交代で稼働していますが、地盤の硬さやマシンの調子によって計画通りにいかないことも多いですね。たくさん掘り進めても、土の回収場所である防音ハウスは狭くて置き場所がなく、土を搬出するダンプカーとの兼ね合いもあってスケジュール管理がなかなか難しいです」 |
Qちゃん | 「シールドが正しく進んでいるかの進路確認も重要だよ。想定の進路とのズレの許容範囲はどれくらいだと思う?」 |
ハザ麻呂 | 「5mほどかな?いや、ここは厳しく3mでどうじゃ?」 |
しょこたん | 「正解は5cm!正しく到達させるのはもちろん、シールドマシン先端の圧力や掘って取り出す土の量なども正しくなければ地上に影響を及ぼしかねません。防音ハウスにある制御室では常にチェックしているんですよ」 |
アンころ | 「シールドマシンの中で操作してないんですか?」 |
Qちゃん | 「基本的に坑内の先端で作業をするのは、セグメントを設置したりする数名のみ。他の作業はほぼ機械化されているよ。シールド工法は、土木のなかでも機械化が進んでいる分野なんだ」 |
到達後のシールドマシンはどうなる?
話をしながら歩くこと約1時間。アンころ・ハザ麻呂はすでにクタクタ…。
Qちゃん | 「さあ着いた!ここがシールドマシンの最前部だよ」 |
アンころ | 「やっと着いた…!先端のセグメントやジャッキが見えますね」 |
ハザ麻呂 | 「200m先にゴールがあると思うとワクワクするのう」 |
Qちゃん | 「ところで、到達後のシールドマシンはどうなるか知っているかい?」 |
アンころ | 「うーん、また解体して…発進立坑や到達立坑から取り出すのかな?」 |
Qちゃん | 「一部のモーターや再利用できるパーツはそうだね。でも、外側はこのまま地下に残るんだ。シールドマシンはトンネルの大きさに合わせて作るオーダーメイドで、基本的には1回だけの使い切り。自分の掘ったトンネルの一部となって一緒に居続けるのさ」 |
ハザ麻呂 | 「地下に眠るシールドマシン…哀愁を感じるのう」 |
しょこたん | 「このマシンは約16か月間、3.3kmも地下を進み続けてすでに満身創痍。残り200mをふんばれるよう、現場の職員全員が応援しながら見守っているんです」 |
アンころ | 「無事に役目を終えられる日を、僕たちも楽しみにしていますね!」 |
Qちゃん | 「では、シールドマシンも拝めたことだし、そろそろ戻ろうか」 |
ハザ麻呂 | 「戻るというのは…まさか…」 |
しょこたん | 「もちろん、来た道を歩いて帰るってことよ。さあ、レッツゴー!」 |
ハザ麻呂 | 「もう一歩も動けぬ…」 |
アンころ | 「現場の人たちの体力ってハンパない…トホホ」 |
<工事概要>
工事名称: | 20号調布(2)共同溝他工事 |
所 在 地: | 東京都杉並区〜東京都調布市 |
発 注 者: | 国土交通省 関東地方整備局 |
施 工 者: | 安藤ハザマ・若築特定建設工事共同企業体 |
工 期: | 2016年3月15日~2023年3月31日 |
工事概要: |
・泥土圧シールド(気泡)φ4.03m×2式 ・トンネル外径φ3.90m、延⻑1,811m(郊外側) ・トンネル外径φ3.90m、延⻑3,536m(都心側) ・柱列式連続壁(ECW)発進立坑(ECW:1,417m²、立坑:8.4m×11.9m×27.2m) ・中間立坑:一式 ・地盤改良工:一式 ・躯体構築:一式 ・道路改良工事:一式 |
取材時期: | 2021年8月 |