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繊細!緻密!ここまでやる!? 汗と涙の結晶の本丸御殿、完成目前!
前編に引き続き、ヨッシー所長の案内で名古屋城本丸御殿の現場を見学するアンころ・ハザ麻呂。
やってきたのは完成間近の上洛殿(じょうらくでん)。
障壁画や天井絵、錺金具(かざりかなぐ)などで彩られ、これまで見てきた部屋と比べても華やかさが際立っている。
ヨッシー | 「上洛殿は三代将軍徳川家光が上洛する際に増築された建物だよ。本丸御殿の中でも格上の人が通される部屋で、最も豪華に飾られた場所なんだ」 |
アンころ・ハザ麻呂 | 「ま、まぶしい…」 |
超大作!上洛殿を華やかに彩る彫刻欄間(らんま)
上洛殿ではちょうど天井と鴨居の間に巨大な何かを取り付けている様子。
ヨッシー | 「あれは彫刻欄間といって、ヒノキに彫刻した後に金箔を貼り、色付けをしているんだ。彫刻は富山の井波彫刻、彩色は京都で制作されていて、大きさは一番小さなもので横2749センチ×縦1230センチ。一対の彫刻だけでも熟練の職人さん数人がかりで半年〜1年もかかる超大作だよ」 |
アンころ | 「表と裏で絵柄も違うんですね」 |
ヨッシー | 「本丸御殿では部屋によって格式の違いが表現されていることは話したよね(前編参照)。上洛殿でも二之間と三之間の間にある彫刻欄間の場合、格式の高い二之間の面に鳥の絵柄が付いているんだよ。ただし、上段之間と一之間にある彫刻欄間だけは逆で、格式の低い一之間のほうが豪華になっている。これは、上段之間は将軍公が座られる場所のため、一之間から見たときに立派に見えるようにするためなんだよ」 |
ハザ麻呂 | 「お殿様の威厳を視覚的に高めるわけじゃな。よく考えられておる!」 |
ハザ麻呂 | 「ところでヨッシー殿、たしかに色も彫刻も見事ではあるが…参考にしているのは古いモノクロ写真なのじゃろう?正しい色や立体はどうやって復元しておるのかな?」 |
ヨッシー | 「その道何十年も彩色をされている職人によると、配色にはパターンがあり、写真の濃淡や線の状態を見ればだいたいわかるそうなんだ。また、制作された寛永期の時代背景や当時使っていた絵の具なども踏まえながら慎重に決めていくんだよ。彫刻も同様に、時代に合った彫り方を検討する。さらに、表現がきちんと合っているかどうか、文化財を扱う専門家の先生に意見をいただくこともあるね」 |
アンころ | 「高い復元度を実現するために、多くの方々の知恵と技術が注がれているんですね」 |
ヨッシー | 「その通り!そして、制作の進行を管理するのが僕たち職員の大事な仕事なんだよ。これから現場の職員を紹介するから、詳しい話を聞いてごらん!」 |
上洛殿の要!絢爛豪華(けんらんごうか)な装飾品づくりを支える2人
上洛殿には彫刻欄間のほかにも多くの装飾類が取り付けられる。
それらの進行をメインで任されているのがタンタンとタッキー。
タンタン | 「僕たち職員のおもな仕事は、求められる高い復元性を維持しながら、工程がスムーズに進むようにさまざまな検証や交渉を行うことです。発注者や専門家の先生方、職人さんたちと写真や資料を見ながら検討を重ね、一つひとつデザインを決めていく。デザイン一点の決定までに多くの時間がかかるんだよ」 |
タッキー | 「僕が担当しているひとつが、漆塗りされた天井や建具に金粉で絵をつける蒔絵(まきえ)です。写真で資料が残されているとはいえ、正面から撮影されていない場合もあるため、まず写真の角度をデータで補正してから職人さんに下絵を依頼します。描く曲線1本も妥協が許されず、工程ごとにじっくり確認していきます」 |
ハザ麻呂 | 「職人さんにおまかせというわけにはいかぬのか?その道のプロなわけじゃろう」 |
タンタン | 「新たな“芸術品”を作るのならそれで良いのだけれど、今回は“復元”が目的だからね。当時の技術や同じ時代の類例などを踏まえながら、限りなく近いものをつくることが何より優先されるんだ。時には相手が頭を抱えるような要求をすることもあるけれど、解決案を一緒に考えていくのが僕たちの仕事。それに応えてくれる職人さんたちは、さすがプロフェッショナルだと尊敬するね」 |
タッキー | 「また、伝統的な建築や装飾品の専門知識を勉強するのも大変でしたね。発注者への報告や説明は必ず当社の社員がすることになっているので、職人さんのように手を動かすことはなくても、頭の中では同じようにわかっていなくてはいけないんです」 |
アンころ | 「通常の現場とは違う知識が求められるんですね!専門的な知識はどうやって身につけたんですか?」 |
ハザ麻呂 | 「さては社内でも精鋭の歴史マニアじゃろう」 |
タッキー | 「この現場に来てイチから勉強しました。専門の職人さんの仕事を見たり聞いたり、当社では城の復元の実績もいくつかあるので、社内で経験のある人たちに聞くこともありました」 |
タンタン | 「伝統技術に触れたくて和紙をすく体験に行ったりもしたよ。こうした伝統建築の案件はそうあるわけではないけれど、身につけた技術はきっと自分の強みになるはず。貴重な経験をさせてもらっていると思っています」 |
アンころ | 「ここで培われた知識が、また今後の伝統建築の案件に活かされていくんですね。これからの活躍を楽しみにしてます!」 |
仲間が知恵を出し合えば不可能も可能に変わる
アンころ | 「9年以上の大規模な復元工事もいよいよ完成目前ですね。振り返ってみてどうですか?」 |
ヨッシー | 「僕は2代目所長なので赴任して6年間になるけれど、これまで経験してきた中でもかなり手ごわい現場だったね。木材の調達や求められる復元度の高さ、伝統建築の知識はもちろんのこと、専門家や伝統職人さんとの仕事の進め方も通常の協力会社さんとはだいぶ違う。現場の職員たちは本当によく勉強してがんばっていると思うよ」 |
職人さんにはこだわりのある人も多く、時には衝突することもあったそう。
ヨッシー | 「それでも関わっている人は誰もが名古屋城本丸御殿は格別だと感じていて、携わることを誇りに思ってくれている。そのものづくりへの思いが同じベクトルへ向き、一体感が出るようになったんだ。安藤ハザマは歴史もあり、いろいろな現場を経験した職員や技術者がいる。今後、どんな困難な現場でも、仲間で知恵を出し合い協力すればつくれないものはないだろうね。それでもこの現場は手ごわかったけれど(笑)」 |
ヨッシー所長に見送られ現場を後にした2人は、帰りの新幹線でもまだ興奮が冷めない様子。
アンころ | 「上洛殿で見た彫刻欄間、すごかったな〜」 |
ハザ麻呂 | 「屋根についた破風(はふ)や獅子口もなかなかじゃった。見えないところまで手を抜かない細やかな仕事…あっぱれじゃ」 |
アンころ | 「そういえばハザ麻呂、現場に着いたときにどうして泣いてたの?」 |
ハザ麻呂 | 「おぉ、あれは昔を思い出してな…。よくあそこにお招きを受けて仲間らと朝まで語り合ったものよ」 |
アンころ | 「昔?仲間??ハザ麻呂っていったい何者???」 |
技術だけでなく、努力と根性が詰まった名古屋城本丸御殿の一般公開は2018年6月8日。
ぜひ皆さんも足を運んでみてくださいね!
<工事概要>
工事名称 | : | 名古屋城本丸御殿復元工事 |
所在地 | : | 愛知県名古屋市中区本丸1-1 |
発注者 | : | 愛知県名古屋市 |
施工者 | : | 安藤ハザマ・松井・八神特別共同企業体 |
設計/工事監理 | : | 名古屋市住宅都市局営繕部営繕課 |
設計協力/共同監理 | : | 公益財団法人 文化財建造物保存技術協会 |
工期 | : | 2008年12月~2018年3月 |
工事概要 | : |
W造地上1階(全12棟) 建築面積3,647㎡ 延床面積3,103㎡ <外壁仕上げ>土壁漆喰塗り <屋根>こけら葺き(上台所のみ本瓦葺き) |
取材時期 | : | 2018年3月上旬 |