3代目のゲンバるコンビ、ドボくんとケンチくんが初めての現場見学へ!滋賀県の和菓子の老舗・たねやの新店舗は、琵琶湖の“森”!?建築業界の常識を覆す、驚きが連続の現場をレポートします!
新・ゲンバるコンビは小学生!?
今回から「ゲンバる」のキャラクターがドボくん&ケンチくんの小学生コンビに交代しました!土木の知識が豊富なドボくんと、建築に情熱を注ぐケンチくんが安藤ハザマの現場を元気にレポートします。お楽しみに!
ドボくんとケンチくんがやって来たのは、琵琶湖の南部に位置する滋賀県大津市。所長のよっしぃと、設計担当のほそやんの同期コンビが2人を迎えてくれた。
ケンチくん | 「所長さんと設計担当さん!?」 |
ドボくん | 「すっげー!」 |
よっしぃ | 「ドボくんケンチくん、こんにちは。初めての現場レポート、がんばってね!」 |
ドボくん・ケンチくん | 「はい!よろしくお願いします!」 |
滋賀県を代表する和菓子の老舗「たねや」の新店舗
よっしぃ | 「LAGO(ラーゴ)大津は、大津湖岸なぎさ公園にある市民プラザを再整備する施設。Park-PFI(民間事業者を公募して公園内で施設を運営する制度)として、滋賀県を代表する菓子店『たねや』さんが運営していくよ」 |
ドボくん | 「僕、たねやさんのどらやき大好き!」 |
ケンチくん | 「LAGOって、なんですか?」 |
ほそやん | 「LAGOはイタリア語で“湖”という意味だよ。地元の方はもちろん、国内外から多くの方に来ていただき、見晴らしの良い琵琶湖を楽しんでもらいたいという思いが込められているんだ」 |
よっしぃ | 「LAGO 大津は、琵琶湖の森の中にあるお店。建物施設はたねやさんの物販店舗とカフェ、LAGO限定のカステラを作る菓子工房などに利用される。それに加えて、駐車場、さらには都市公園として豊かな自然や水に触れられる森をつくっていくよ」 |
ドボくん | 「森をつくるんだね!建物以外の部分も安藤ハザマが担当するのは珍しくないですか?」 |
よっしぃ | 「確かに今回のように造園部分を手がけるのは珍しいケースだね。さすがドボくん、詳しいね!」 |
ドボくん | 「へっへー!安藤ハザマのことならなんでも知ってるよ〜」 |
ベテラン設計者ほそやんが頭を抱えた「砂のお城」
建築好きのケンチくんは、やはり建物が気になる様子。
ケンチくん | 「せっかくつくった建物にどんどん土をかけているけど、どうしてですか?」 |
建物にパワーショベルで容赦なく土をかけている。これは一体…?
ほそやん | 「あれはね、建物を土で埋めちゃうんだ」 |
ドボくん | 「えーっ!そんなことして怒られないの?」 |
ほそやん | 「怒られません(笑)。実はね、今回の建物を設計する際に、たねやさんのオーナーから受けたお題が“砂のお城”だったんだよ」 |
ドボくん・ケンチくん | 「砂のお城!?」 |
ほそやん | 「たねやさんは、店舗ごとにコンセプトをしっかりつくる会社で、建築業界でも評価が高いんだ」 |
ケンチくん | 「安藤ハザマでは、八日市の杜やジュブリルタンの施工を担当していますよね」 |
滋賀県東近江市にある若松天神社の境内にお店を構える「八日市の杜」。木漏れ日が差し、ゆったりとした時間をすごせるカフェスペースも併設(写真提供:株式会社たねや)
滋賀県彦根市にある、たねやグループのクラブハリエが手がけるパン専門店「ジュブリルタン」。琵琶湖のほとりに位置し、涼風を感じながら心地よいひと時をすごせる(写真提供:株式会社たねや)
ほそやん | 「そんなたねやさんが求める砂のお城ってなんだろう?どんなお店にしたいのだろう?打ち合わせを重ねながら言葉をひとつひとつ汲み取り、何度も図面を作成してはまた悩んで…。最初の3ヶ月は本当に必死だったね」 |
ほそやん | 「そこで思いついたのが、土の中に建物を埋めるアイデア。LAGO 大津が琵琶湖の森の中にあるお店なので、建物を山に見立てたらおもしろいんじゃないかと思ったんだ」 |
ケンチくん | 「リクエストそのままに、砂のお城を設計するわけではないんだね」 |
ほそやん | 「発注者の要望からイメージをふくらませて、期待以上のものを提案するほうがワクワクするでしょう?何もないところから形を作っていくのは設計の中でも最も大変な作業。それと同時に最も楽しい作業でもあるんだよ」 |
山の建物をつくる手順は以下の通り。土は重いため、建物への負荷軽減を考慮して発泡スチロールブロックと土のうを積み上げ、土をかぶせていく。
ほそやん | 「土をかぶせた後で、笹を植えていくよ。笹の広く深く根を張る性質を利用することで、土の崩壊防止にも役立ってくれるんだ」 |
ケンチくん | 「笹が成長するにつれて、ますます本物の山みたいになるんだね!」 |
白い発泡スチロールブロックの上に緑色の土のう袋を積み、上から土をかぶせていく。
右半分は土がかぶってすっかり建物の跡形もない
土をかぶせる反対側は、琵琶湖が一望できる開放的な空間となっている
驚きのオーダーの連続
ケンチくん | 「よっしぃ所長は、現場で大変なこととかありましたか?」 |
よっしぃ | 「自分の中の当たり前を取り払うのが大変だったかな。これまでの経験が通用しない状況の連続だから」 |
ドボくん | 「通用しないって、どういうこと?」 |
よっしぃ | 「例えば、建物の場合、まっすぐ、均一に、傷を付けないように施工して引き渡すのが一般的。しかし、今回の場合はまったく逆で、たねやさんはわずかなゆがみや使用感のあるほうを好まれる。そのため、四角い柱を削って非対称にしたり、壁の塗装にムラを出したり、新品の素材に傷を付けて風合いを出したんだ。やりすぎると不自然になってしまうし、どの程度やるのかの調整が難しかったね」 |
階段の天井は凹凸感のある曲線にすることで洞窟にいるような印象に
公園のデッキ部分は、あえて風合いを出すためにコンクリートを削って傷をつけている
よっしぃ | 「さすがに壁の目地(めじ)をなくしたいと言われたときは驚いたけどね」 |
ケンチくん | 「ええっ?目地をなくす!?」 |
ドボくん | 「どうしたの、ケンチくん?目地ってなに?」 |
ケンチくん | 「目地というのは、部材と部材の間にある継ぎ目のことだよ。目地には建物の揺れや構成材料の温度変化による伸び縮みから起こる亀裂・ひび割れを防ぎ、雨風の侵入から建物を守るという、めちゃくちゃ大事な役割があるんだ。それがないってことは、いずれ壁に亀裂が入ってしまう心配もある。そんな、そんな目地をなくしちゃうなんて!」 |
ドボくん | 「早口すぎてわかんないよ……」 |
よっしぃ | 「つまりは、通常はあるはずのものがないってことだね。目地がないために壁に入るかもしれない亀裂やひび割れも、あえて建物の魅力として受け入れようということなんだ。目地を入れないことを前提に設計・施工計画をして、施工後も定期的な点検を行うので、構造的な問題はないんだけどね」 |
ドボくん | 「でも、柱や壁を見ていると、新築なのに温かみがあるっていうか、なんだかホッとするね」 |
よっしぃ | 「そうなんだ。どんな要望でも確実に良くなるから信じてやってみようと思うし、細部にまで及ぶ視点や感性は、さすが老舗の和菓子店だなと感心させられるね。僕自身、ここまで新しい価値観の発注者と仕事ができるのは入社して24年間で初めてだし、今後はないかもしれない。貴重な機会にしっかり勉強していきたいと思っているよ」 |
琵琶湖の森のシンボル“やまおやじ”って?
美しい琵琶湖が一望できる公園部分では、多くの職人さんたちが施工の真っ最中。
よっしぃ | 「たねやさんは自然とともに生きることを大切にしている会社で、店舗だけでなく、公園づくりにも非常に熱意を持っているんだ。琵琶湖の森と呼ばれるにふさわしく、鳥や昆虫など生き物が育ち、豊かな自然と人々が共存する里山づくりを目指しているよ」 |
ほそやん | 「こっちに来てごらん。“やまおやじ”にあいさつをしよう」 |
ドボくん・ケンチくん | 「やまおやじ???」 |
恐々と近づいてみると、そこには2メートルを超える大きな木が。
ドボくん | 「これが、やまおやじ?」 |
ケンチくん | 「切り株から細い枝がいっぱい出てるね。こんなの見たことない!」 |
ほそやん | 「やまおやじは、クヌギやコナラの古木で、薪などに使用するために木を伐採すると、新しい芽が出る。それを何十年、何百年と繰り返してできるんだよ」 |
ケンチくん | 「自然に人の手が加わることで、こんなおもしろい形になるんだね」 |
ほそやん | 「人と自然が共存している、琵琶湖の森のシンボルでもあるんだ。木の穴から見る琵琶湖も絶景だから、ぜひのぞいてみてね」 |
よっしぃ | 「やまおやじは、滋賀県高島市マキノ町から特別に移植されたもの。その他にもLAGO 大津では、比叡山から桜の苗木や三尊石(さんぞんせき)を譲っていただいたり、デッキの床材に信楽の砂利を使用したりするなど、滋賀県内の素材が積極的に使われているよ」 |
-
水・樹・空気を意味する三尊石は、比叡の山なみを表している
ドボくん | 「たねやさん、滋賀の自然をすごく大切にしているんだね」 |
ほそやん | 「自然だけでなく、人も含めてね。実は、公園部分はあえて未完成のまま引き渡し、オープン後に植栽イベントで木を増やす予定なんだ。訪れるお客さんも巻き込んで、みんなで森を育てていきたい思いが込められているんだよ」 |
環境に配慮した「ゼロカーボン・ゼロウェイストパーク」を目指して
美しい琵琶湖を守るために、LAGO 大津では、さまざまな環境の配慮も行われる。
よっしぃ | 「地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量を、森林の吸収量よりも抑える“ゼロカーボン”を目指し、建物の屋上や駐車場にはソーラーパネルを設置。さらに、隣接する水再生センターからの下水処理水を空調設備用の熱源に利用するよ」 |
ほそやん | 「さらに、安藤ハザマが研究開発に参加しているCP(カーボンプール)コンクリートも使われているよ。ゴミ処理場のゴミを燃やす焼却炉で発生する二酸化炭素をコンクリートの材料に吸収・固定させることで二酸化炭素を有効活用し、排出を削減するというものなんだ」 |
ドボくん | 「安藤ハザマの技術が生かされてる!やったね!」 |
よっしぃ | 「できるだけ廃棄物を減らす“ゼロウェイスト”にも取り組むよ。建物にかぶせる土は、元々あった市民プラザの土をそのまま再利用。さらに、お菓子の製造過程で発生して廃棄される、あずきの皮などをもとにした循環堆肥を使用して、土壌の改良にも役立てるんだ」 |
ケンチくん | 「限りある資源を守るために、いろいろなことがされているんだね」 |
ドボくん | 「僕たちもできることから始めていかないとね!」 |
思わずフリーズ「建物が土に埋まってますけど…」
毎回恒例の若手社員インタビュー。今回は入社14年目のもりやん、6年目のしおちゃんとちゃげあすの食いしん坊トリオが登場。
ケンチくん | 「よっしぃ所長とほそやんから、すごく変わった現場だと聞きました。みなさんはどうですか?」 |
もりやん | 「僕は、設計図を実際にどう施工していくか具体的に計画する施工図を担当したんですが、設計図を見て衝撃でした。えっ、土に埋まってるんですけど……って」 |
ケンチくん | 「やっぱり社員の人でもびっくりするよね」 |
もりやん | 「見たことのないものをつくるには、新しい技術を考える必要が出てきます。例えば、土で建物を覆うためには、土を下から締め固めないといけない。何回に分けて?何センチずつ?どのくらいの圧力で?と、その一つ一つを試験しながら、答えを出していかないといけないんです」 |
しおちゃん | 「僕は外壁のR加工や斜めの切り上がりなど、ここの建物の特徴でもあるニュアンスのある処理に苦労しました。一般的な直角の壁なら簡単にできることでも、R加工のような曲線だと図面通りにならないことがあるんです。そんな時は、まず自分で考えて、それでもダメならみんなで知恵を出し合います」 |
ドボくん | 「うーん。めちゃくちゃ大変そう……」 |
もりやん | 「大変だけど、それ以上にいい刺激も受けているよ」 |
しおちゃん | 「やっている間は必死だけど、絶対良い経験になると思うからね」 |
ちゃげあすは3週間前に現場にメンバー入りしたばかり。
ちゃげあす | 「変わった現場という噂は聞いていたのでドキドキしながら来ましたが、噂以上で(笑)、正直飽きないですね。二度と経験できないことも多いでしょうから、たくさん吸収したいと思っています」 |
ドボくん | 「みんな、かっこいい!」 |
ケンチくん | 「完成まであと一息、がんばってね!」 |
<工事概要>
工事名称: | LAGO 大津新築工事 (大津湖岸なぎさ公園市民プラザたねやグループ直営店出店プロジェクト) |
所 在 地: | 滋賀県大津市由美浜3番地、4番地 市民プラザ |
発 注 者: | 株式会社 たねや |
設計・施工: | 安藤ハザマ |
工 期: | 2023年11月1日〜2025年2月28日 |
工事概要: |
RC造 地上 2階 敷地面積 23,864㎡ 延床面積 1,457㎡ |
用 途: |
飲食店舗、物販店舗 他 都市公園緑地 |
取材時期: | 2024年12月 |