東京の地下を掘り進め! 第二溜池幹線及び勝どき幹線工事
四国や東北と、日本のあちこちを飛び回っていたアン姉さんとハザ丸。しかし今回は一変して(!?)都会のど真ん中、東京都港区の虎ノ門交差点からスタート。
ハザ丸 | 「アン姉さん、なんでこんなところに来たの? 見た感じ、現場はなさそうだし…」 |
アン姉さん | 「うふふ、そう思うのも無理はないかもね。現場はこの交差点の真下! 地下40mにあるのよ」 |
そう、今回紹介する工事は都内最大級の下水道トンネル「第二溜池幹線」と、それに極めて近接して掘り進められた「勝どき幹線」だ。幹線というのは、トンネルのこと。虎ノ門交差点の真下から隅田川に面した「勝どきポンプ所」まで、計画全体の延長はなんと、4.5kmにもおよぶ!
アン姉さん | 「さっそく行ってみよう!」 |
東京を豪雨の被害から救う巨大トンネル!
現場事務所でアン姉さんとハザ丸を出迎えてくれたのは、所長のむらすけ。
この現場の所長としては3代目なのだとか。
ハザ丸 | 「…3代目? なんかカッコイイ!(小声)」 |
アン姉さん | 「ハザ丸、しーっ!」 |
そんな会話もしつつ、2人はむらすけに質問。
ハザ丸 | 「地下に巨大なトンネルが掘られてるって聞いたけど、そもそもこのトンネル工事は何のための工事なの?」 |
むらすけ | 「目的は3つあるよ。まずは『浸水被害対策』。赤坂や銀座、築地周辺は排水能力が低くて、集中豪雨のたびによく浸水被害が起こってしまっていたんだ。この工事によって排水能力を高め、被害を防ぐことができるんだよ。2つ目は『閉鎖性水域※の水質改善』。東京23区の下水道は、雨水と汚水を一緒に集めて運ぶ『合流式下水道』が大半なんだけど、一定量以上の雨が降ると、汚水混じりの雨水を河川に排水しなくてはならなかった。そのため、皇居のお堀や築地川などの水質汚染につながってしまっていたんだね。今回のトンネルが完成すれば、それを解決することができるんだ」 ※閉鎖性水域:外海との水の交換が行われにくい水域のこと。水の入れ替わりが遅く、一度汚染されると回復に時間がかかる。 |
アン姉さん | 「じゃあ、川やお堀がキレイになるってこと?」 |
むらすけ | 「そういうこと!そして3つ目は、水を排出するためのポンプ所機能の整備。実はこのトンネルの地上部分では、『都道環状2号線』(他社施工)の工事が行われていて、既存のポンプ所を移設する必要がある。これらを同時進行で行っている工事なんだよ」 |
ハザ丸 | 「へぇー!!そうなんだ。今、工事はどういう状況なの?」 |
むらすけ | 「第二溜池幹線と勝どき幹線のほとんどは完成しているんだけど、細かい部分の工事はまだ行われているんだ。この工事が始まったのは2009年だから、かなり長い期間にわたる工事なんだよ」 |
東京都の下水工事では、工事中の事故防止のため「
2つのシールドマシンが同時に掘り進む、かつてない工事
むらすけ | 「完成した第二溜池幹線の一部は、すでに運用されているんだ。トンネルを見に行ってみようか!」 |
むらすけに連れられて、アン姉さんとハザ丸が到着したのは「勝どきポンプ所」。トンネルが通っているのは地下40m、ということは…。
アン姉さん | 「歩いて降りる…のね」 |
階段をひたすら降りてゆき、厳重に閉められた扉を開けると…そこにはなんと、直径8m!!の巨大トンネルが!アン姉さんとハザ丸、あまりの迫力に驚愕。
アン姉さん | 「大雨が降っても、これだけ大きな下水管なら大丈夫ね!」 |
むらすけ | 「そういうこと! この工事にはいくつか珍しいポイントがあって、主なものを4つほど挙げていくよ」 |
ポイント1 都内最大級の巨大シールドマシン!
トンネル工事は『シールドマシン』という専用の機械で掘り進めていく。第二溜池幹線の内径は8m、これを掘ったシールドマシンは外径9mになる。これは国内のシールドマシン工事では最大規模!
ポイント2 その幅なんと30cm!? 2つのトンネルを同時施工
むらすけ | 「『第二溜池幹線』と『勝どき幹線』は、勝どきから分岐点までの約280mを平行して走っている。この2つのトンネルは同時に施工されたんだよ」 |
つまり、2台のシールドマシンが同時に掘り進めていったということ。これはかなり珍しいことなのだ。
ハザ丸 | 「1日でどのくらい進むの?」 |
むらすけ | 「シールドマシン1台につき3.6m。2つのトンネルを同時に掘り進むから、合わせると1日あたり7.2mの計算になるね」 |
アン姉さん | 「ひえーっ、そんなに時間がかかるのね!」 |
むらすけ | 「しかも、2つのトンネルの間隔はわずか30cmしかない状態で掘り進めて、途中で分岐していく。これもかなり珍しいし、難しい工事なんだよ」 |
ポイント3「非開削での管接合」と「地盤凍結工法」
むらすけ | 「東京都心の地下には、地下鉄や電気・通信のケーブルなど、既に数多くの構造物がある。 だからトンネル同士を接続しなくてはいけない場所が大変なんだよ」 |
ハザ丸 | 「じゃあ、どうしたの?」 |
むらすけ | 「だから、全ての工事をトンネルの内部から行う『非開削の管接合』で施工を行ったんだ。また、地下鉄の運行に影響を与えないように、地盤を凍結させて掘り進める『地盤凍結工法』も使用したよ」 |
東京メトロに与える影響を最小限に抑えるという、非常に慎重に行われた工事なのだ。
ポイント4 国内最大経の坑内発進による枝線施工
むらすけ | 「この管接合部の近くにもう1か所、枝線を接続しなければいけない部分がある。でも同じように銀座線の真下だから
|
そこで行われたのが、坑内発進による枝線の施工。つまり、第二溜池幹線からシールドマシンを発進させ、トンネルを掘り進めていったのだ。これは全国でも数件しか前例がない、非常に珍しい工事だとか。
集められた雨水を一気に放流!「ポンプ所」も大迫力
ハザ丸 | 「ところで、こんなに大きな下水管なのに、このポンプ所にはあまりポンプが見当たらないみたいだけど…」 |
むらすけ | 「よく気付いたね。それは、この第二溜池幹線の放流が『ふかし上げ』という方式だからなんだ」 |
第二溜池幹線に雨水が流れ込む赤坂周辺は、隅田川よりも地盤が高い地域。そのため、ポンプを利用しなくても上流と下流の水位差を利用して排水を行うことができる。しかし、勝どき幹線の流域は地盤が低いため、ポンプを利用。また、大雨にならないかぎり水はふかし上がるほどの量にならないため、第二溜池幹線でも通常はポンプを使って排水しているという。
ハザ丸 | 「地盤の高さの違いだけで、40mの高さを水が登っていくんだね…想像つかないなあ!」 |
アン姉さん | 「それだけ、自然の力は凄いってことよ。目に見えないところで、『都市土木』が私たちの生活を守ってくれているのね」 |
今はまだ一部の運用だが、すべて完成したら対象流域の浸水被害は減り、皇居のお堀もよりキレイになるはず。「観光都市・東京」を安心して楽しんでもらうために、工事はもう少し続くのだ。
地下に思いを馳せながら、施工物件を見学!
現場からの帰り道、周辺にある安藤ハザマの施工物件を見学しながら、もう一度虎ノ門交差点に向かったアン姉さんとハザ丸。すでに竣工した物件も多いが、新橋の駅前に建つ商業ビル、再開発中のオフィスビルをはじめ、現在新橋〜虎ノ門エリアでは安藤ハザマの物件が3現場も施工中なのだ。
ハザ丸 | 「このあたりにはいろいろ安藤ハザマの施工物件があるんだね! それにしても、この道の下をあの大きなトンネルが通ってるなんて…」 |
アン姉さん | 「このあたりを歩く時は、地下のことを想像すると面白いかもね♪」 |
<工事概要>
工事名称: | 第二溜池幹線及び勝どき幹線工事 |
所 在 地: | 東京都中央区 |
発 注 者: | 東京都下水道局 |
施 工 者: | 安藤ハザマ・大豊建設共同企業体(特) |
工事概要: |
第二溜池幹線:泥水式シールド工法 内径 8,000mm 延長 2,517.35m 勝どき幹線:泥水式シールド工法 内径 3,500mm 延長 82.20m |
用 途: | 下水道 |
取材時期: | 2016年1月 |